Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      


 実家に帰るのも五年振りだった。家の外観というのは、数年で目立って変わる物ではなく、せいぜい庭の椿が取り払われていること位だ。
 両親の顔を見るのも、やはり五年振りだ。事前に連絡していたとはいえ、母は跳ねるように喜ぶ。一方、父は不器用に言葉を繕う程度だ。外見は二人とも変わってしまったが、内面は変わっていない様だ。
 俺の部屋の物は殆ど動かしていないとの言葉を受け、部屋へ向かう。
 扉を開くと、床の上に幾つかの段ボールの山があった。
 上京前にいつか送ろうと、部屋の物を全て箱に詰めたのだが、結局、そのまま放置されていたのだ。
 ベッドに腰掛け、部屋を眺める。並べられた段ボール箱は墓石の様だ。まるで福岡での出来事、記憶を埋葬した墓場みたいだと思った。
 そういえば、宝物というには大袈裟だが、それなりに大切にしている物を集める場所があった事を思い出し、奥の襖に手を伸ばす。
 左下のワイン箱だ。引っ張り出して中を見ると、当時、良く聴いたレディオヘッドやグリーンデイのCDだったり、デヴィッドフィンチャーの映画のDVDが詰められたりしていた。
「え」
 しばらく箱を漁っていると、箱の底に見覚えのある厚紙でできた筒が現れた。
「これは」
 田原が大切にしていた、色鉛筆入れだった。
 何故、こんな所に。
 自分の知らない自分の記憶が、再び斬りかかってきた。そんな気がした。

       

表紙
Tweet

Neetsha