Neetel Inside 文芸新都
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椎名
 山田が同窓会に参加するという噂は本当だったんだ。彼は卒業後、ほとんど連絡がとれなくなっていたのだが、同窓生の誰かとSNSで繋がって今回の同窓会に参加するに至ったらしい。
 山田は、大学時代からずっと疑っていた人物だ。
 田原が殺された事件。その容疑者の一人だ。
 サークルに入会し、最初の集会が開かれた時は驚いたものだ。何せ、事件当時に明かされていた容疑者の一人がいるのだから。だが、彼もこうして普通の生活を送っているのだ。捜査の結果、疑いが晴れた、若しくは何らかの罰を受けたが、罪を償い大学に通って私と出会ったか、そう考えるのが妥当だろう。まあ、後者の可能性は低い。なぜなら山田は田原と高校時代の同級生である筈だから、事件当時は高校三年生。高校三年生で罰を受け、すぐに釈放されて大学というのは無理があるからだ。
 だけど、真偽を確かめずにはいられない。そう思いながらも大学生活四年間、勇気を出すことは出来ず。更に五年が経ち、再び機会がやって来た。これを逃せば、もう二度とその機会は訪れないかもしれない。
 それにしても。
 まさか、草野まで来るとは。
 草野は相変わらずだ。能天気というべきか、とにかく何をするにも表面的で、心がこもっていない。心ここにあらずというのか。彼の持つ健忘症がそうさせているのか定かではないが、やはり、上辺だけに感じてしまう。
 それに久しぶりに姿を見せたのも、偶然だと言うし。草野の様子を見ていると、山田の事はおろか、田原の事まで彼は忘れてしまったのではないか。そんな予感さえ生まれてしまう。健忘症のせいかもしれないことは分かる。
 分かるのだが、分別できない妙な怒りが少しずつ込み上げてきた。
 感情を抑えながら、会話を続け、山田が退席するのを見計らい、私も席を立った。
 山田の後を追いかけ、路地裏に入ると人混みが減っており、山田の姿はすぐに見つかる。
 何やら電話をしているのが気にかかるが、仕方ない。
 彼が通話を終え、携帯をしまう所を見て、声をかけた。
 山田はすぐに振り返り、眉をひそめる。
「なんだ、椎名か。どうしたお前まで?」
「え?」
 予想外の反応だ。私まで、とは。どういう意味だ?
「たった今、着信があったんだよ。草野から」
 草野が?
「ほら、丁度来た」そう言って山田は手を振る。
 慌てて振り返ると、先程までと同様の冴えない表情をした草野が立っていた。
「椎名。やっぱり、諦めきれないよな」
「何言ってるの?」
 想定外の状況に上手く声が出ていない。そのため声が届かなかったのか定かではないが、草野は私の問いかけには応じず、ただ山田を凝視している。
「田原の事件、お前が関わってるのか?」


『魔女旅に出る』

       

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