Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      


 始発で降りた会社員達が駅構内から出てきている。
 一方、俺は駅前にある窓口販売のコーヒーを片手に、座る場所もないため立ち尽くし、浜崎さんと向かい合っている。俺は何をしているんだろうか。
 早朝はまだ肌寒く、暖かいコーヒーに助けられる。
「僕は魔女狩りに遭ったんだよ」
「は?」
 浜崎さんは突然、意味不明な発言をした。
「魔女狩り。つまり理不尽な迫害行為だよ」
「つまり、どういうことですか?」
「僕は和光商事の営業マンだったんだけど。突然、解雇を告げられて。その原因が取引先との揉め事なんだけど。そもそも、上層部の不手際で起きた問題なんだよね」
 彼は神妙な顔で話し始める。
「勿論、悪いのは上層部なんだが、容易く非を認めては身内に対する面子が立たない。しかし取引先に納得してもらうには、どうにか責任の取り方を形で示さねばならなかった。すると、ある日。僕は不倫者になってたんだ」
「え?」
 それは唐突である。
「いつの間にか、社内にね、僕が不倫者だって噂が広まってたんだ。そして僕の居場所はなくなって、和光商事側からすれば体よく解雇出来たんだな。取引先から見れば僕に責任があったように見える訳さ。そうして、この会社に復讐しようと今に至る訳さ。酷い話だろう」
 本当に酷い話である。
「不倫だとか、根も葉もない噂を流すなんて酷いですね」
 恐らく上層部なのだろう。
「いやいや勘違いするなよ。僕が不倫してたのは本当の事だよ」
「は?」
 何だって?
「偶々、俺が不倫をしていた為に白羽の矢が立ったんだよ。本当に酷すぎる」
 確かに、酷い話だが、彼の背景を知ってしまうと何とも言えない気分だ。
 不意に同情心を持った自分が恥ずかしくなる。
「しかし、不倫をそこまで咎めるのもどうかと思うぜ。確かに悪いことではあるだろうさ。でも、そこまで批判されるとさ。男としては面白くないよな」
 何を言っているのだ。というか彼は怒りの対象を間違えているのではないか?
「話は変わりますけど。本当に協力してくれるんですか?」
 俺は堪えきれず話題を変えた。
「直球だね。まあ、あの部屋には貴重品や個人情報は置いていない。行くなら、事務室だね」
 彼は微笑んだ。

       

表紙
Tweet

Neetsha