Neetel Inside 文芸新都
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 言葉の通り、時が過ぎる事を忘れてしまった。
 我に返って、時計を確認すると、一時間以上が経過していた。
 勤務表を手に取って平成17年2月末日。田原が殺された日の、佐藤の勤務を探す。土曜日なので、休みの可能性は高いが、確認しておくに越したことはないだろう。
 勤務表は先程の書類と違って、碌に整理されておらず、部署や日付が煩雑になっており、作業は中々進まないが、俺は夢中になって、探した。
 作業中、携帯へ何度か着信が入ったが、気にもせず、黙々と探した。相手は恐らく浜崎さんからだろう。
 そこまで夢中になる程、自分で膨らませた自らへの疑いを萎めてしまいたいのだろう。
 情けない話だ。笑えてしまう。だが、それでも作業を耽々と進める。
 どれくらいの時間が経った頃だろうか、背後でドアノブを捻る音がして俺は思わず肩をすくめる。
 痺れを切らしたか、それとも不安に駆られたのか、そんな想いで浜崎さんがやってきたのだと思った。しかし、指定時間外にルートへ行くのはリスクが高いのではないだろうか。そんな事を考えながらゆっくりと振り向く。
 だが、倉庫の入り口に立っていたのは、全く知らない人物だった。
 予想外の状況に動揺し、つい目を見開くが、それは相手も同じ様子だった。
 その男は残業の疲れからか、目は血走りシャツは不格好によれている。
「おつかれさまです」
 俺は自然に挨拶を送るが、男は返事どころか、会釈することすらなく、倉庫の中へ入り作業を始めた。
 なんて礼儀の無い男だろうか。しかし、好都合だった。
 男は大きく欠伸をする。彼の無関心な様子をみると、作業を中断する必要はないように思える。その予想通り、男はさっさと用件を済ませ出て行った。
 俺もさっさと作業を続け、当日の佐藤の出勤を確認することが出来た。結果、佐藤はその日は非番で、休日出勤もしていない様だった。
 結局、倉庫の中に二時間近く籠っていた。10年前の勤務表を探すのは骨が折れる。
 携帯を開き、仕事が無事終わった事を浜崎さんへ伝える。
 受付に鍵を戻すと、肩に疲れを感じて、呑気に肩を回した。
 そうして廊下へ出た途端、点々と灯されたライトで出来た人影が差した。
 またか。間違いなく、鉢合わせになるだろうが、今回も適当に対応しよう。
 先程の倉庫での経験が俺を油断させる。
 しかし、やがて現れた人物は、またしても予想外の人物だった。
 現れた男は怪訝な顔をする。髪をオールバックに固め、典型的な優男の外見をしたその男は、紛れもない、佐藤であった。

       

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