Neetel Inside 文芸新都
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魔女旅に出る
人殺しのキモチ

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椎名
 佐藤は、実に似つかわしくない恐ろしい言葉を吐いた。オペラ歌手がハードロックを歌うような違和感だ。
 人を殺した。それは、そのままの意味で捉えていいのだろうか。
 少し迷って、「どういう意味ですか」と尋ねる。
 彼は微笑み、首を横に振る。
「次は君の番だ。さっきの話の続きを聞かせてくれないかな」
 さっきの話というのは、私の身内の不幸、についてだろう。だが、詳細に話すのはまずいのではないか。
 しかし、佐藤の話も当然、気になる。そして、もう一つ、妙な感情が芽生えているのも気になる。
 私が思案していると、再び佐藤が笑った。
「冗談だよ、じゃあ、お邪魔したね」
 彼は一礼し、席を立つ。
「待って」
 自らの口から飛び出した言葉に、自分で驚いてしまう。
 佐藤も同様に、目を丸くしている。
「話を聞いてくれますか?」
 何故、こんな事を言っているのだろう。先程、生じた妙な感情がそうさせるのだろうか。
 なんとなく、田原と話しているときのような包容力を彼に感じたからだろうか。
「私は、生まれてからずっと、この街に住んでいて。それは、さっき話した、亡くなった身内を置いてきぼりにするような、罪悪感がして、離れられないんです」
 彼の返事を待たずに、私は話し始める。
 佐藤は黙って立ち止まる。
「その身内はまだ、未練があるんじゃないか、無念に思っているんじゃないか。そう考えている内に、囚われた魔女みたいに動けなくなるんです」
 ああ、いけない。
「そう、私は魔女なんですよ」
 気持ちが入りすぎて、おかしい事を口走ってしまう。
 これでは、田原に小突かれてしまうじゃないか。
 いつの間にか、思考までおかしくなっている。
 しかし、小突かれることはなく、私の肩には優しく手が置かれた。
「落ち着きなよ」
 地に落ちた。
 佐藤の優しい一言と、所作で、私は地に足が着いた。気がした。それは、すごく久しい感覚だ。
 私はずっと、地に足が着かずにいて、誰かに助けてほしかったのだろう。
 だから、彼を呼び止めて、問わず語りを始めただと、気づく。
「詳しい事は分からないし、余計なお世話かもしれないけど」
 佐藤は続ける。
「もっと、自分の為に生きたらどうだい」
 彼が、そう言った後は、もう何も言えなかった。
 ただ、喉が震えて、言葉を作れず、頬を濡らした。
 魔法使いは、他にもいるじゃないか。

       

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