Neetel Inside 文芸新都
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 明朝。
 福岡市内を彷徨する。いや、行先はあるだろう。自分に言い聞かせる。
 身体の重さを感じない。あらゆる要素が麻痺して、最低限の感情と意識しか残っていない、そんな感覚がする。まるで意識だけが遊離して、街の中をうごめいているようだ。
 今の俺は、犯罪者のようなものであるから、用心しなければいけない。何の罪に問われるのかまでは分からないが、佐藤に間違いなく通報されているのだから、お尋ね者といえるだろう。
 しかし、今の精神状態で用心などできそうにないし、無駄だろう。
 不安だけを抱えたまま、仮住まいである大橋駅近くの安アパートを出て、西鉄に乗る。
 どこに向かっているのだったか。再び自分へ問いかけながらも、正しく乗り換え、目的の箱崎界隈で降車する。
 あとは、徒歩で5分もない距離なのに、無意識に彷徨っていたのか、余計に時間をかけ、目的の教会の前に立った。
 顔を上げ、全体を眺めた。煤けた白い壁にステンドグラス。鋭敏な屋根の上には十字架があしらわれている。まさに教会といった出で立ちだ。
 神の御前も俺にとっては悪魔の巣だ。回りくどい事などせず、最初からこうすればよかったのだ。そうすれば余計な混乱を避けられたかもしれない。
 佐藤が犯人でないと椎名は言うが、誰が犯人というのか。
 一番、恐れているのは。勿論。俺自身が、人殺しであるという結末だ。
 木造の扉を開く。
 思いの外、シンプルな内装で、木造の椅子と、教壇。十字架がある。
 そして、最前列の席に腰掛ける佐藤の姿があった。
 歩み寄ると、誰かが隣に座っている。あれは、椎名だ。
 だから、どうしたというのだ。
 今更、そんな事で臆したりしない。
「佐藤だな」
 俺の声で、佐藤と椎名はゆっくりと振り向く。
 椎名は、目を丸くしてこちらを見る。一方、佐藤も口を開いて、驚く素振りを見せるがすぐに口元を微笑に変える。
「君か」そう言って、再び微笑む。
「いつか来ると思っていたよ」

       

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