Neetel Inside 文芸新都
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 駅前のマックで、道具を広げた数分後。田原は鉢巻みたいに頭に巻いたタオルをほどいた。
「出来た」
「また虹?好きだよねえ」椎名が口を尖らせる。
「雨季にはピッタリだろ」
 ここ数日しつこく続いている雨空を、田原は爽やかな顔で眺める。
「季節関係なく、描いてるじゃない」
「そういう椎名は、田原の虹の絵が好きだって言ってたじゃないか」
 俺が口を挟むと、椎名は「うるさい」と声を荒げる。
「それはそれ。大体、何で虹なの?」
 椎名の問いかけに、田原は「そうだなあ」と唸り考え込む。
「昔さ、止まない雨は無いだとか、雨の後には虹がかかるとか、そんな使い古された励ましの言葉を掛けられたんだよ。だけどさ、晴れの天気だって続かないし、今みたいに雨の天気が延々続くこともある。しかも雨の後に虹がかかる事よりも、かからない可能性の方が高いんだよな」
「ネガティブだ」田原らしくない、後ろ向きな考えである。
「それに対して、虹を信じて前を向けとか言うけど、それでもそう都合よく虹は架からない。だから、代わりに、紙に虹を描くんだよ」
「なるほど」分かったような、分からないような
「いまでこそ、俺の状態も落ち着いてるけどさ。まあ安定剤みたいなもんだよ」
 なるほど。安定剤か。
 それは、分かる。
「それより、少し馬鹿にしただろ。特に椎名」
「したよ。ロマンチストか」
 そう茶化した、椎名を田原は軽く小突く。だが言葉とは裏腹に、椎名は和やかな表情で虹の絵を眺めていた。

       

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