Neetel Inside 文芸新都
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 輝かしい夢の後に待ち受ける、光の差さない深海のような現実。
 水底に居るのはいつからだろうか。
 突然ではない。少しずつ、沈んでいったんだ。
 船に穴が空いて、一つ、また一つと浮力を失って、気づいたら、深海にいた。
 誰も助けにこない深海。もし来るとすれば。

 感情が矛盾している。
 俺が田原を殺すはずがないと確信し、犯人をみつけると宣言したのに。威勢が良いのは最初だけ。
 結局、何年も行動を起こさずに過ごした。
 いざ行動を起こすと、椎名は、佐藤の味方になる。いつしか容疑者は居なくなり、また自分を疑っている。
 これから椎名はどうするつもりなのか。それだけでも聞いておけば、俺も少しは落ち着いたかもしれない。
 そんな事ばかり考えながら、数日経った。
 警察に自首まがいの相談をしてみたが、門前払いを受けてしまう。他にも、何か足しになればと帰郷してから初めて大濠を訪れ、田原の家へ向かったが、あの赤い屋根の家は無くなっていた。
 行動と言えば、その程度だった。行動を起こす度に、自分が犯人であるしている気がして、怖いのだ。
 ここ数日は無為な日々が続いていると思ったが、今となっては俺自身が歩んできた人生自体が無為なものであると気づいた。
 ひどくネガティブな考えをしていると思うが、失う物が無くなった以上、悲しさなどはない。
 変わったことと言えば、多少気持ちも落ち着いてきたという事くらいだろう。
 だが、その結果。より一層空虚感が身に染みてしまう、
 ある朝、仮住まいの出窓から外を眺めていると、スーツ姿で出勤する青年を見た。
 その姿に、東京でのかつての自分を重ねると、まだ、数か月前であるのに、随分と昔の事に感じた。
 思えば、東京で過ごした日々は本当に空虚なものであった。今となってはこちらの生活も大差がないのだが。
 部屋に積み上げた段ボールを漁り、先日実家から持ってきた田原の色鉛筆入れを取り出し、それをぼんやりと眺める。
 結局、何故これが手元にあるのかは分からないままだった。
 かつては椎名と二人で魅了された物だが、今では俺が田原の家に侵入したことを示す、記憶の腫物でしかない。
 色鉛筆入れを段ボールに戻すと、携帯電話が鳴った。液晶には浜崎さんの名前が表示されていた。

       

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