Neetel Inside 文芸新都
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 夢のように消えていた記憶は夢の中で蘇った。
 病院のベッドで目を覚ました後、悲しみや、安堵感、そして十年、絶え間なく続いた閉塞感から解放された気持ちが一度に溢れ、ひとしきり涙を流した。
 わずか、数分間の出来事に十年間以上も翻弄され、身の振り方を制限され続けてきたとは皮肉な話である。
 病室のテレビを点けると、日付が変わっている事を知った。
 ニュースを見る度に、世の中で起きている不幸な出来事ばかりに目を引かれていたが。何だか、今は喜劇的な出来事も目に映るようになった気がする。
 これは心境の変化や、気持ちに余裕が出来た事の現れなんじゃないか。
 そう考えるのは、流石に性急である。
 のんびりしている内に、医者と警察が交代でやって来て、これまでの経緯を説明された後、一通り事情聴取を受けた。
 そして、自由になったのは数日後だった。
 気持ちに余裕が出来ただなんて考えるのはやはり、性急である。
 これまで抱えてきた、大きな心の翳りが一先ず晴れたとはいえ。信頼してきた先生に裏切られた事実も残る。
 ただ、翳りは晴れた。
 記憶が戻る直前には、もう生きる意味などない。そこまで考えていたのに、今では何とか生きていけそうな気さえする。
 とにかく今は、早急に解決するべき事がある。
 椎名には記憶が戻った日に真実を伝えたのだが、「わかった」という簡素な返事のみだった。
 そして、自由の身になった今日。信じられない連絡が入った。

       

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