椎名
 雑踏を押しのけて、空港内にアナウンスが鳴り響く。
 柱の時計を確認して、横の席に置いたリュックを背負う。
「まだ時間もあるだろうに、もう行くのか。草野君を待たなくていいのかい?」
「いいんです。それに、草野には連絡しないでと言ったじゃないですか」
「そうは言ってもね」
 確かに佐藤さんの言う通り、草野に何も告げず街を出るのは無礼であるだろう。
 一応、昨晩にこれまでの御礼は伝えたのだが、真実を伝えない私を見て居たたまれなくなった佐藤さんが、私が旅立つ事を連絡してしまったらしい。
 正直な所、草野に旅立つ事は伝えたいのだが、散々迷惑をかけた立場でそれを伝えるのはどうかと思うのだ。

『明日の空港に最後でも来てなんてとても云えない』
 昔、田原がよく聴いていた曲の一節を思い出す。

「気持ちは分からないでもないけどね。結局、その絵は持っていくのか」
 佐藤さんはファイルに入れた絵を指して、咎めるように言う。
「はい。だけど、未練がある訳じゃなくて。いや、少しは未練もありますが。これはお守りとして、持っていきたいんです」
「なるほどね。良い話じゃないか」
「ありがとうございます。最後にもう一つだけ、お願いがあるんですけど、これを草野に渡していただけませんか」
 そう言って白い封筒を渡す。
「手紙?」