Neetel Inside 文芸新都
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草野
 何もこんな直前に連絡しなくてもいいだろうに。そう繰り返し愚痴を吐く。
 しかし、間に合うのかどうか。煩わしく思う時間は短かった。市街地から地下鉄でわずか10分という福岡空港の利便性の良さに初めて感謝する。
 地下鉄を降りて、すぐに国内線のターミナルへ向かう。
 空港内は国土交通省に混雑空港と指定されただけあり、夥しい人の数だ。しばらく徘徊した後、搭乗ゲートの傍に立つ佐藤さんをみつけ、一礼し近づく。
「先日は、ありがとうございました。田原の絵を保管してくださったおかげで、真実を知ることが出来ました」
「君の執念のおかげだよ。いや、仲間を思い遣る気持ちのおかげというべきなのかな」
「どうでしょうか。とにかく、これまでの非礼を詫びさせてください」
「そんな事はいいよ」
「そういう訳には」俺が言うと、彼は言葉を遮るように目の前へ封筒を差し出した。
「もう、彼女は行ってしまった。せめて君が来るまで待つように言ったんだけどね。どうやら、君に会う訳にはいかないようだ」
 俺は、言葉の真意を汲み取れず、無言で封筒を受け取る。
「いまどき紙の便りなんて、珍しいね」
「多分、当てつけみたいなものだと思います」
 封筒を眺めて呟く。
「じゃあ、僕はこの辺で失礼するよ。またいつか、どこかで会おう」
 そう言って佐藤さんは、この場を後にした。結局、お詫びできず終いだった。
 一人になった俺は搭乗待ちのシートまで歩き、そこへ腰掛けた。
 わざとらしく深呼吸をして、封筒を開けると二つに折られた花柄の便箋が入っていた。便箋を開くと『草野へ』という出だしで始まっている。
 文章を読むでもなく全体を眺めた時、思わず笑みがこぼれたのは、椎名が不得手としていた平仮名が、綺麗な丸みを帯びていたからだ。

       

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