Neetel Inside 文芸新都
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椎名
 草野と二手に分かれ、門から向かって左へ足を運ぶ。
 壁伝いに進み、表情のない打放しコンクリートの外壁が続く。壁に窓がないのは防犯の為なのだろう。認めたくはないが草野の言う通り私たちが住んでいる地域とは常識が違うようだ。窓の代わりに排気口らしき設備がいくつかあるが、それでは中から外の景色が見えないのではないか。部屋でくつろぎながら夜空を眺める事に生きがいを感じる私には耐えられない環境である。
 足元に敷かれた砂利はギシギシと音を立てる。一度先入観を持ってしまうと、こんな些細な物まで防犯対策なのではないかと勘繰ってしまう。
 それにしても、家の全体像が把握できないまま既に二回角を曲がっているため、自分が今どこにいるのか分からず、細やかな遭難をしている気分になる。
 足を進めるにつれて不安は大きくなる中、遂に玄関が姿を現した。
 木製の引き戸で、ここにはインターホンもあった。迷わず押してみるが、反応はない。
「こんにちは」
 インターホンを押した以上は一応挨拶をするのが礼儀だと思い、口に出してみたが何となく虚しさが増してしまった。そして、もしかすると、行き違いになったかと思った時、中で何か物音がした。
 また新たな不安に包まれ、引き戸に手を伸ばすが、やはり動かない。
 連絡のつかない田原に、家の中から聞こえる物音。怪しい、引き返すべきだろうか。だけど、表通りに出るためには引き返すのと、このまま進むのと、どちらが早いかも分からない。ならば、とりあえず進んでみることにしよう。
 更に進んだ先の突き当りを曲がると、急に空間が広がった。
 先程までの砂利道とは違い、発色の良い芝生に手入れの行き届いた庭木。先程の大濠公園と比べれば当然スケールは小さいが、それでも立派な池がある。そして、その庭を眺めるための、大きな出窓もあった。
 なるほど、塀に囲まれている分、この庭に景色を詰め込んでいるのだろう。やはり文化が違うんだなあ。
 そういえば。慣れない事の連続で草野の事を忘れてしまっていた。彼と未だ合流できていないのはおかしい。さすがに敷地の外周を半分は回っていると思うのだが、まだ合流できないのは、やはりおかしいのではないか。
 先程から嫌な予感ばかりが生まれ、いよいよ気が滅入ってきた。帰りたい。
 何気なく出窓の方に目をやると、ブラインドが中途半端に開いている事に気づく。中を覗けるなと思い、近づいてみると、最初に赤い円形の絨毯が目に入った。
「魔法陣?」
 そう感じさせる、幾何学的模様の入った神秘的な赤い絨毯の上には、クッションだろうか、何かが置いてある。窓が少なく陽が入らない為か、照明の灯いていない部屋は薄暗く、物の認識が難しい。
 目を凝らす。
 違った。あれは、人だ。顔は見えないが、田原だろう。何故なら。
 いや、それより。あれは、何だろうか。
 人の身体には、必要のない何かがある。つまり異物だ。そう、異物がある。
 その瞬間、私を包んでいた幾つかの嫌な予感は全て恐怖へと還元され、次の瞬間にはその場から駆け出していた。

       

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