Neetel Inside ニートノベル
表紙

戦争アンソロジー ノキア島戦線異常あり
『序文』

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 開戦より一年余、「帝国」と「共和国」との戦争は佳境を迎えつつあった。
 戦争初頭、帝国は圧倒的に強かった。
 しかしそれも始めの半年だけである。
 持ち前の技術力と新戦術で破竹の快進撃を続けた帝国は、しかしあまりにも急速に戦線を拡張し過ぎた。
 伸びすぎた戦線は兵站が滞って膠着し、元より人手不足の帝国ではとても維持できなくなってしまったのだ。
 点と線だけの占領地は反撃に出た共和国によって分断、孤立させられ、共和国は虱潰しにするように孤立した帝国軍部隊を撃滅していった。
 まるで逆再生のように敗北を続ける帝国軍。共和国は持ち前の物量線で雪崩れ込むようにして帝国に襲い掛かっていた。
 帝国は共和国の次の手を判断しかねていた。
 このまま従来通り孤立した部隊を潰していくか。それとも本国を狙いに正面の防衛線を突破してくるか。あるいは防備の強力な正面を避けて山岳地帯に迂回するか。もしくは……。
「内海に艦隊を派遣し、海洋を突破するか」
 状況を説明しながら高級参謀は帝国周囲の地図を指差した。
「いずれにせよ、これ以上敵を本国に近付けるわけにはいかん。なんとしても絶対国防圏の外で敵を食い留めてもらいたい!」
 これに先立つ事数か月前、内海に浮かぶ孤島・ノキア島にて飛行場を設営するという計画が立てられていた。
 理想的な地形のノキア島に北、中、南に飛行場を設営、そこの各所に数十機ずつの飛行機を配置し、敵がどこに進攻をしてきても直ぐに飛び立てるように、いわばノキア島を巨大な不沈空母に仕立てようという計画である。
 だが軍官民が一体となった血の滲むような作業であるにも関わらず、飛行場設営の作業は遅々として進まず、気付けばいたずらに時間だけが過ぎて行った。
 この間、帝国がノキア島に飛行場を設営していると気が付いた共和国は虎視眈々、ノキア島を狙い始めた。
 脅威を感じた帝国は本土防衛用の戦力であった大量の兵力を派遣、これに備えるべく陣地設営と飛行場設営の両方に乗り出したのである。
 軍司令部は防衛隊司令官としてジェノー・モルガンを任命した。大戦初頭では鬼の司令とも呼ばれた人物である。
 高級参謀としてハーヴェイ大佐。軍内部では豪放快活、攻撃論者の先鋒と目される人物である。
 さらに次席参謀としてホラン中佐。海外留学もある秀才であり、持久戦展開を主張する人物として有名であった。
 モルガンはまず二人の作戦構想を訊く事にした。指揮をとるのは司令官であるが、事前に作戦を立てるのは参謀である。まずはその参謀たちの構想を知りたかったのだ。
 二人の構想は凡そ定まっていた。
「第一夜は海岸線への砲撃を行いたいと思います」
 言いながらホランはノキア島の地図を指示棒で差した。
「現在我が軍は強力な砲兵を多数有しています。これを集中的に利用し、まずは上陸してきた敵を一斉に砲撃する。海岸付近に敷設するので艦砲射撃の危険に晒されますが」
「第二夜は夜襲を行います。砲撃で混乱し、錯綜している敵を徹底的に叩き潰します」
 ハーヴェイが意気込んで言い、ホランがそれに付け足す。
「我が軍には戦車部隊もあります。それを集中的に利用できれば敵に大損害を与える事が出来る筈です」
「その後はどうするね」
 モルガンが訊ねると、ホランは「ゲリラ戦を展開したいと思います」と返答をした。
「ノキア島には多数の密林、渓谷、大河があります。これを有機的に利用して敵を翻弄するんです。さらに島の各所には洞窟がありますので、司令部その他は洞窟に移動して洞窟戦を行おうかと」
「洞窟?」
「珊瑚礁で形成された洞窟である。珊瑚礁は頑丈ですから、一トンくらいの爆弾ではビクともしません」
 言いながらホランは指示棒を畳んだ。
「また現在北の飛行場だけは使用が出来ます。ここに航空隊を常駐させるのは無理でも、着陸は出来るので本土から飛ばした飛行機を収容する事は可能です」
「後方の艦隊も出せると海軍は言っております。いざとなれば艦隊が斬り込むと」
 モルガンは頷いた。
「なるほど。陸海空で決戦が出来るわけか」
「ここが失陥すれば本土そのものが危険です。なんとしても食い止めねばなりません」
「その通りだ」
 再度モルガンは頷いた。
「ではそのように作戦を立ててくれ」
 そう言ってからモルガンは呟くように、自分に言い聞かせるように参謀たちに言った。
「玉砕は……どうか玉砕だけはしないでいただきたい。一日でも長く、お国の為に」

   *

 帝国がノキア島の防衛体制を整えていると知った共和国軍は内海に向けて大艦隊を派遣した。海を覆い尽くさんばかりの軍艦、輸送船、さらにそれに乗る陸兵、戦車、砲兵。空母には戦闘機だけで百機を超す軍用機を積んでいる。
 作戦司令官は「ノキア島など数日で落としてみせる」と豪語し、あまりにも強大に過ぎる艦隊は一途ノキア島に進攻していた。
 作戦目標はノキア島の占領。次にノキア島の防衛隊を無力化する事、そして可能であればノキア島の飛行場を無傷で奪取する事である。
 

       

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