Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

イチサン。3-2 コス研。


作戦は失敗だった。
ミコのケガは軽くはない。騒ぎになることも
考えられたから病欠として休ませた。
敵の待ち伏せがあると、何故考えなかったのか。
予想できたことだった。
イチローは胸の内に空洞を感じた。
それは覗き込むほどに深く暗く
どこまでも奥底が見えない。


 九尾の存在を確かめなければならない。


コス研は、この事件とはどのくらい
関りがあるのだろう。
部室には疾風の九尾の衣装があり。
傀儡箱は見つからなかった。
このことはミコの話からはわかった。

だが、そのあと交戦した九尾は、
黒猫との関係を仄めかす言動。
素早く、ボクシングの様な戦闘スタイル。
そのくせ簡単に抱えこまれたり
投げ飛ばされたり、変にしろうとっぽい。
不自然な空中での動きも気になる。
女子を投げ飛ばす異様な力の強さ。
またその凶暴性。
好意的ではない。


放課後コス研に向かうイチローの姿があった。。
腕には「生徒会」の腕章がしてある。

昨夜の事件の規模から生徒会が自主的に
被害状況調査を行うこととなった。

防犯カメラの画像は昨夜の内にイチローが
ツキノワグマとニホンザルがケンカしている
映像にすり替えて置いた。
やり過ぎだったかと思ったが、
あとで聴いた話しでは、
教員も生徒会もみんな真剣に見たようだ。
イチローはひとり吹き出しそうになった。

学園側は校舎を中心に、施設の面で、
生徒会では部活動に関わる面で、
それぞれ調査を受け持つこととなった。

イチローは生徒会役員ではないが、
やたら部活の多いこの学園では
生徒会のみでは手が回らず、
臨時役員として手を貸すこととなった。

もしコス研または九尾本人が一連の事件に
関りがあるのなら安易なコンタクトは避けたい。
だが、今、手掛かりとなるのはコス研を
措いて無いだろう。
近づくには口実が生まれた。
危険だがラッキーでもある。
進むしかない。

「失礼します。」静かに扉を開ける。

「あ。えーと。生徒会?」
机に向かって、紙を片手に困惑している
メガネをかけた長髪の女生徒がいた。

「部長の神楽すずかさんですか。
昨夜の事故の件ですが、
報告、提出が無いのはコス研だけに
なったので直接取りに来ました。
僕は役員代行の蒔稲イチローと言います。」

「おー。あの蒔稲くんかー。
ジツはいま書いてるとこなんだが、、」

神楽の手元にあるのは朝礼で配布された報告用紙
だった。
用紙と言っても、部名、部長名を記入し、
被害状況を書く。無しなら「無し」と記入すれば
良いものだった。(顧問の印は要る)
それがほぼ白紙のまま。
ルーズなのか。書類嫌いなのか。

「では質問するので応えてください。僕が
記入します。」
「いやー。悪いねー。助かるわー。」
「被害はありましたか。」
「無い。と思う。」
「”思う”っていうのはこの際ダメです。
報告にならないから。」
「えー。細かいなあ。」

どうもこのコは嫌だな。とイチローは思う。
見た目のクールさと言動のルーズさ。
このギャップが嫌だ。
やり方を変えよう。

「では、テーブルから。なにか紛失しているものは
ありませんか?」
「えっと。ハイチューと、、」
「それは持ってちゃダメでしょ。今それを言う
つもりはないけど主旨は分かってますよね?」

「あ。ハイ。紛失はありませんです。」
「引き出しの中はどうですか?」
「あ。ハイ。ダイジョウブであります。全部あり
ますです。」
少し気に障ったが構わないことにした。

「あの隅にあるのは何ですか。」イチローの指す
そこには青く塗られたカタマリがある。
「去年の学際の時の巨大のコスです。着ると2mは
あります。」

「・・ロッカーの中は大丈夫ですか。」
神楽の瞳がキラリと光るのを見た。
「見る?ホント見る?」
「申告でいいです。プライバシーに関わります。」
「じゃーん。ほらあ。見て見てエロい水着だよ。」
神楽は自分でロッカーを開け、布の少ない水着を
イチローの目の前でヒラヒラさせた。
ミコの言っていた物はこれだろう。
ロッカーの中にはアイドルコスと猫耳も見えた。
これもミコの言ったとおりだ。

黒猫アタッチメントは視覚 、聴覚くらいは
モニターできるようにしておきたい。
どんな方法があるか検討しとこう。

「あー。イチローくん。チラ見ー。ヤラシー。」
「しまってください。神楽さんのものですね。
無くなったものはありますか。」
「ぜーんぶありまーす。」
性格が合わないとはこういうことを言うのだな。
とイチローは思う。
建て前ではあるが僕は役割を遂行しに来た。
神楽は絡むことをコミュニケーションだと
思って楽しんでいる。

「横のロッカーはどうですか。」
「そこ相談なんだけどー。」
「どうぞ。」
「ウチ、部員もう一人いるんだけど。入院してて。」
「入院?」

神楽の話すところ、アクションの稽古中に
右足を骨折してしまったという。それも2週間も前。

「カギは本人が持ってるから。開けられない。」
「開かない。なるほど。開けてみていい?」
神楽はテーブルに座り、足をブラブラさせる。

「ねえ、イチローくん。」
ロッカーの取手に手を掛けたとき神楽が口を開いた
「この世には、わざわざ開けなくてもいいトビラっ
てあると思わない?」
覗き込むようにイチローを見つめている。

「なんてね。開けてみれば。」

イチローは取手を引く。

       

表紙
Tweet

Neetsha