Neetel Inside ニートノベル
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 遊園地から帰ってくると、睦月から電話があった。
「……見つけたわ」
「――――ッ! どこにいた!」
「うちの神社の中」
 なんでそんなところに!
「わかった! 今から向かう。……助かった。マジで本当にありがとう」
「お礼はいいから。それより早く来てあげて。あの子たちにはあなたが必要なんだから」
 そう言って睦月は電話を切った。



 俺が神社に辿り着くと、すっかり暗くなった神社の入り口で睦月が立っていた。
「早く行って」
「……ああ」
 睦月も必死で探し回ってくれていたのだろう。いつも綺麗に手入れされている髪はくしゃくしゃになっていて、顔には疲労が浮かんでいた。
「本当にありがとうな」
「感謝なんかする必要ないわ。真っ先にうちの神社を探せば良かったのに、こんなに気付くのが遅くなるなんて……。ほんと死にたいくらい馬鹿だったわ。私。ほら! さっさと行きなさい。神社の中にいるから」
 睦月に言われ、俺は神社の中へと踏み込んだ。木造で古びた神社の中は、明り取りから差す月光に照らされている。その隅っこに、怯えるようにして三人は蹲っていた。
「なあ」
「――ッ!」
 三人がびくりと震えた。
「どうして、神社に来たんだ」
 少しの躊躇いの後、凛々香が震える声で言った。
「お母さんとお父さんは――っ。死んだ人は神様のところにいるって睦月さんが言ってたからっ」
 その言葉に鈍器で殴られたかのように思考が固まった。
「もっと桐緒と一緒にいたいよっ」
 かける言葉を失った。
 こいつらの両親は今年の春――交通事故で死去していた。三人は施設で保護され暮らしている。こんな甘えたい盛りの子供たちが突然両親を失ったのだ。寂しくないわけがない。その時香恋が言った。
「……帰りたくない」
 こいつらに対して何もしてやることができない。何もできない。
 無力さ加減に体が震えた。
 何故こいつらがこんな目に遭わなければならないんだ。
 春。香澄が死んだと聞いたとき、涙が止まらなかった。初恋なんて自分では吹っ切れたと思っていたのに。いつもいつも俺をからかって笑っていた香澄。お前は何故、こいつらに俺の存在を教えたんだ。俺をからかうためだけが目的だったのか。いや、違うだろう。結婚して以来全然会いに来なかったじゃないか。それなのに、困ったらここに行きなさいって子供たちに教えていたのは、つまり自分に何かがあったら俺を頼れって、そういうことだろう?
 だけど。無力感に歯噛みする。俺には自立した経済力がない。こいつらを引き取って育てることなど到底できないのだ。こいつらに何ができる。何をしてやれる。香澄を何を求めてこいつらを寄越した? 考えて考えて、
「――ッ!」
 三人を力いっぱい抱きしめた。
 その時、凛々香が堰を切ったように泣き出した。
「うああぁぁ……! お母さぁん……、お父さぁん!」
 それにつられるように、京香と香恋も泣き出した。
「あああぁぁぁぁ……!」
「うああああぁぁぁぁ……」
 三人はずっと俺の胸で泣いていた。優しく差し込む月の光が俺たちを包んでいた。

       

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