Neetel Inside ニートノベル
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「いいじゃない。夏休みの間でしょ」
 家の中。必死に状況説明したおかげで「馬鹿じゃないの?」と言われながらも、なんとか俺の尊厳は維持された。
 東条睦月は大学で知り合った友達で、同じ経済学部に所属している。とある授業で隣の席になったことがきっかけで話すようになった。俺が一人暮らしだと知ると、たまに家事を手伝ってくれるようになった。
 そして間が悪い時にやって来たわけだ。
 三姉妹に話を聞くとどうやら、夏休みの間だけこの家で遊びたいらしい。
「しょうがないな。わかったよ」
 結局折れた。睦月の視線が怖かったしな。
「わーい! ありがとっ」
「これから世話になるわ」
「……なまこに昇格」
「便所虫からなまこですかい」
 何気にこのチビッ子がむかつく。
「つか、どうして俺のところに来たんだ? 今まで会ったこともないのに」
「お母さんが困ったらここに行きなさいって言ってたからさっ」
 ショートカットの長女、凛々香が無邪気に笑う。香澄がニヤニヤ笑う様子が目に浮かぶ。あの女、昔から俺をからかうのが生きがいだった節があった。
 その時、『くぅ~』という間の抜けた音が聞こえた。
「――っ!」
 次女、京香が顔を真っ赤にして俯いている。腹の音か。時計を見るとそろそろ一三時だ。
「……空腹」
「俺も腹が減った……」
 そういえば食料も底をついていた。買いに行かねば食べるものがない。
「そんなことだろうと思ったわよ。ほら」
 睦月が持ってきていた大き目の鞄からタッパーに入った弁当が現れた。二日分はありそうな量だ。
「おお!さすが睦月」
「お姉さんありがとーっ」
「ありがたいわ」
「……女王様」
おいおい、三女。評価が少しおかしくないか?
「温めるからそこで待ってて」
「おお、ありがとう」
 睦月はすらりと立ち上がると台所へ向かった。
「そういや、なんでお前らメイドの恰好してるんだ」
 三姉妹のコスプレについて尋ねてみる。だいたい、こんなフリフリな服を着ていたら暑いだろうし、何より目立つ。
「お母さんが、このお家に行くときはこの服を着なさいって作ってくれたんだっ」
 凛々香の返答にほかの二人も頷く。
「なんだと! 香澄のやつ俺の趣味をどこから……! 誰にも話したことなかったのに!」
「……馬鹿なこというと止めなさいよ。ほんとに変態くさいわよ」
「俺は至ってノーマルな一八歳男子だぜ。幼女のメイド服に萌えるわけなだろ」
 ハハハ。睦月の視線が痛いぜ。
「すぐできちゃうから。ほらあなたたちも準備を手伝って」
「はーいっ」
「わかったわ」
「……お腹空いた」
 ドタドタと駆けていく子供たち。まず手を洗ってから、と叱られ洗面所、もとい風呂場に駆けこむ三姉妹を見ながら俺はなんともやるせない気分になった。
「あーあ。やっと忘れられると思ったのに……」
 ため息をつきながら天井を仰いだ。

       

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