Neetel Inside ニートノベル
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 ある日のこと。いつも通り凛々香に引っ張られて東条神社へと向かった。東条神社の境内は参拝客も滅多にいないので、俺たちにとっては丁度良い公園スペースだった。睦月の親父さんもいい人で三姉妹を目を糸にして可愛がる。
 今日も境内に行くと親父さん、もとい神主さんが箒で掃除をしているところだった。
「おや桐緒君。今日も来てくれたんだね。こんにちは、凛々香ちゃん、京香ちゃん、香恋ちゃん」
「こんにちはっ」
「あら、こんにちは」
「……こんにちは」
 こんなに暑い中、大して汚れてもいない境内を掃除していたのは三姉妹を待っていたからに違いない。このおっさんなかなかやりおる。
「うちにアイスがあるから三人とも食べにおいで。もちろん桐緒君もね」
「はあ、ありがとうございます」
 その時、後ろから涼やかな声がした。
「お父さん、鼻の下伸ばしすぎよ」
 振り向くと、そこには巫女姿の睦月がいた。東条神社に通いだしてから睦月の巫女姿は初めて見た。睦月のやつ、なかなか似合っているじゃないか。
「ちょ、ちょっと」
 まじまじと見ていると、睦月は体を隠すように身をよじった。
「何? 私がこれ着たら変?」
「いや、似合ってるよ。すっごく」
「――ッ!」
 その時、京香が俺の腹に頭突きをかましてきた。
「――ぐはあっ!」
 抱きついたまま離れない。
「おい、暑いだろ。離れろよ」
「いや!」
 そして、睦月にあっかんべーした。
「……」
 睦月から蛇のような殺気が迸った!
「お、おいおい! 京香! 挑発はやめろ。ほら仲良く遊ぶぞ」
 危ない危ない。親父さんは殺気を感じたと同時にそそくさと退散していった。さすが親父さん。この女が怒ったらいかに恐ろしいか解かっていらっしゃる。
「睦月もそんなに怒るなよ。今日は一緒に遊ぼう。な?」
「京香ちゃんずるい……」
「え? なんて?」
 声が小さくて聞き取れなかったので、聞き返すと睦月はむくれた顔で言った。
「なんにもないわよ! ほら遊ぶんでしょ。着替えてくるからちょっと待ってて」
そしてすたすたと歩いて行ってしまった。



 炎天下の中、遊びまくった俺たちは睦月の家へあがらせてもらった。実は睦月の家に入ったのはこれが初めてだった。住居と神社は別の建物で、何気に住居スペースの方が大きかった。
「すごいすごーいっ」
「へえ」
「……思ってたより広い」
 三姉妹はうれしそうにはしゃいでいる。今までずっと遊んでいたのによくそんな元気があるな。
 疲れ切った睦月と俺は睦月の親父さんが用意してくれていたアイスを舐めながら三姉妹を眺めていた。
「ねえねえ、睦月さんっ」
 凛々香が睦月に声をかけた。
「ん? なに? 凛々香ちゃん」
「神社の方に入ってもいい?」
「中が見たいのね。いいわよ」
「俺も行っていいか? 一回見てみたい」
 神社の中ってどうなっているのか、一度見てみたかったのだ。
 睦月に連れられて神社の中に入った。中は色々なものが雑多に置かれていた。
「おいおい、なんか散らかってないか?」
「今整理している最中なのよ。でも暑くて全然はかどらなくて」
 その時凛々香が言った。
「ここに神様がいるんだねっ。死んだ人ってどこに行くの?」
「なかなか哲学的なことを聞くわね。凛々香ちゃん。色々言われているけど、神道では神様の治める世界に行くみたいよ」
「ふーん」
「はい、もういいでしょ。暑いし、家に戻りましょう」
 その日は睦月のお母さんに料理をご馳走になって帰った。さすが睦月の母親。めちゃくちゃ料理が上手かった。なにせ香恋が褒めたほどだ。俺もあれくらい上手くなりたいものだ。


       

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