そんなこんなをしながらも八月の真ん中が近くなってきた頃に、凛々香がこんなことを言い出した。
「遊園地に連れてってよっ」
「遊園地?」
遊園地なんてこの辺りにあっただろうか。俺は思案する。
「あたしも遊園地行きたい!」
初めの頃に比べて随分砕けた様子の京香が寝っ転がった俺のジーパンを引っ張る。やめろ。ズボンが脱げる。
「……遊園地は好き」
香恋がそう呟くのを聞いて凛々香と京香が騒ぎながら俺の背中をよじ登る。
「行こうよ行こうよっ」
「たまにはいいじゃないのよ」
どさくさに紛れて香恋も登ってくる。おいっ。メイド服のスカートを顔に被せるな!
「や、やめろ! 重い! わかった、わかったから!」
三人を引き離すと俺は携帯を開いた。
「くそっ。睦月にきいてみるか」
困ったときの睦月頼りだ。
「何? 桐緒」
睦月はワンコールで出た。毎回思うが出るのが早い。
「凛々香達が遊園地に行きたいって騒いでさ。どこかこの近くに遊園地ないかと思って」
「ふうん……。随分父親っぽくなったわね」
「はあ!? 何言ってるんだよ!」
そんなことはない。ただ、連中も神社で遊ぶばっかりじゃ、夏休みの思い出としては可哀想だろうと思っただけだ。
「まあ、良いことよ。いいわ、丁度新聞屋さんから遊園地のタダ券をもらったの」
「巻き上げたんじゃ……」
「もらったのよ」
新聞屋も可哀想に。
「五枚もらっておいたから、今度一緒に行きましょう」
「お前も行くのか?」
「……何よ? 不満?」
やばいな。受話器越しに不穏な気配を感じる。
「いや、子守を手伝ってくれると助かる」
「そう。それじゃあ、明日は空いてるかしら」
「ああ、空いてるよ」
「じゃあ、決まりね」
電話を切ると三姉妹が期待に満ちた目で俺を見る。
「お前ら喜べ。明日は遊園地だぞ」
ぎゃあー! という叫び声をあげながら三姉妹は狂喜した。
その日はなかなか寝ない三姉妹を寝かしつけながら、何だか妙な気分になった。まるでこいつらの本当の父親になったような……。そうだったらどんなに幸せだったろう。どんなに願っても俺の隣に香澄はいないのだ。その夜俺は久しぶりに香澄を夢で見て、少し泣いた。