Neetel Inside ニートノベル
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 すぐに自宅に帰る気にならなかった俺は、睦月と喫茶店で時間を潰していた。すると携帯電話が鳴りだしたのだ。それは実家の母からの電話だった。
「もしもし!? 桐緒!? まだ、香澄ちゃんの子供たちいる!?」
「いや、午前中に帰ったよ。もうとっくに到着してるころだと思うんだけど」
「それがまだ帰ってきてないらしいのよ。連絡も急に取れなくなったって」
「……は?」
 そんな馬鹿な。いや、あいつらならありえる。あの三馬鹿姉妹なら。くそ! 最後の最後にふざけたことをしやがって!
「わかった。こっちでも探すからなにかあったら連絡してくれ」
 携帯電話を切る。
「なに? どうしたの。あの子たち帰ってないの?」
「ああ、連絡もつかないらしい」
 睦月はすぐさま携帯電話で三姉妹それぞれに電話をするが、どれも繋がらなかったようで、携帯をポケットにしまった。
「だめだわ。電源を切ってるみたい」
「俺、今から思い当たるところ探してくる」
 俺が席を立つと睦月も
「私も探すわ。お互い携帯で連絡を取り合いましょう」
 と言ってくれた。
 三姉妹捜索が始まった。



 睦月と別れた俺は真っ先に自分の家に向かった。まさか、家の扉の前にいるんじゃないだろうか。いたずら好きなやつらのことだ。帰ってきた俺を驚かせるためにマンションに隠れているかもしれない。しかし、自宅前に到着したが連中の姿は見当たらなかった。
 くそ! まさか誘拐? あの三姉妹は香澄に似て整った顔をしているし、変質者に狙われてもおかしくない。
 だが、なんとなくそうじゃない気がした。多分俺の近くにいる。そんな気がするのだ。
 自宅のマンション周辺や、付近の良く出入りした店を捜しつくした後は、かつて遊んだ遊園地に向かうことにした。あいつらかなり喜んでいたからな。
 駅に向かって思わず走り出した。もう、かっこつける余裕なんかこれっぽっちもなかった。必死だった。本気であの三姉妹が心配だった。
 遊園地に到着したころには、もう夕方になっていた。入場ゲートは帰りの客で溢れていた。ゲートの係員へと走り寄る。
「あのっ! ここにこんな子供たちが来ませんでしたか?」
 何日か前に撮った三姉妹の写真を見せて尋ねた。が、さすがに大量の客を見ているためにわからないと言って首をふられた。そして、事情を話すと園内を探す許可を出してくれた。
「ありがとうございます!」
 思い当たる場所へと走り出す。あの日みんなで回ったルートを辿る。
 睦月は睦月で思い当たる場所を探してくれていて時々連絡を送ってくれるがまだ見つからないとのことだった。母親にも電話したが、三姉妹はまだ帰ってきていない。
 もやもやとした不安で押し潰されそうになる。あいつらに何かがあったら。くたくたになった体を無視して必死に走った。
 タコの出てくるボートツアーのアトラクション入り口に辿り着いた。が、しかし三姉妹は見つからない。ここじゃないのか。時間の経過と思い当たる場所が無くなっていく事実が大きな焦りを生み出し、冷静に考える余裕を奪い去っていく。
 もうこの遊園地しか思いつかない。ここのどこかにいるに違いない。いなければ困る。頼むからいてくれ。そんなわけのわからないことを呟きながら、次のアトラクションへと走り出す。
 急流滑り、ショーのステージ、タイムトラベルのアトラクション。思いつく限りの場所を探し回った後、再び入場ゲートの前に一人で立っていた。
 いない。三人ともどこにもいない。
 絶望的な喪失感と共に、遊園地を後にした。



 俺達を救ってくれたのは、睦月だった。

       

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