Neetel Inside ニートノベル
表紙

早乙女薫はモテない
濃密な保健室

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 昼休み。
 早乙女薫は、ゆかりと顔を突き合わせてご飯を食べていた。

「薫ってさ、別に友達が少ないわけじゃないよね」
「いや、少ないと思うよ」
「ほんと?」
「ほんと。ゆかりくらいのものだよ」
「えへへ、そっか。照れるな。じゃなくて、友達いなかったっけ?さやかとか京子とか」
「話しかけたら優しく接してくれるけど、別にそれ以上の関係じゃないと思う…」
「基準はそこなんだ。えーっと、なら男子の友達もいないよね?」
「いない。というか話したことすらないかも…」
「信じられないな。貴方この教室の半分男子なのですよ?」
「うん。どうしてだろう。」
「そんなに可愛いのにね。いや、高嶺の花という奴か…?」
「そんなわけないよ。低嶺の草だよ」
「草生える。じゃなくて。実は男子何人かに聞いてみたのですよ」
「ほう」
「やっぱり早乙女さん、近寄り難い感じみたいね。あと、男子に告られたことある?」
「あった様な」
「どんな感じだったの?」
「オタク君だった。彼女になってくださいって言われて」
「うんうん」
「知らない人にだったしごめんなさいって。それならLINE教えてって言われて。私やってませんって答えた」
「でも私とはLINEしてる」
「うん。貴方とする様なLINEはしてませんって」
「あらら」
ゆかりはオタク君に同情しているのだろうか。
「ま、それはそのオタク君もどうかと思うけどね。もう少し優しく接してあげてもいいかも」
「そうかもしれない」薫も認める。

「それで、カラオケ行ってくれる気はない?」
「カラオケ?」
「うん。前はバイトとか何とか言って断ってくれたじゃん」
「うーん」
「やっぱり嫌?」
「大人数で行って…空気読んで…でも多分読めなくて…隅っこで固まってることになるし」
「そっか。やっぱ急には無理だよなあ」
「カラオケ、楽しい?」
「うん、楽しいよ!」
ゆかりは屈託無く笑う。
「さつきみたいに上手い子もいれば、そうだな、さやかは歌ってるときもかわいいね。あと男子がめっちゃカッコつけてラルク歌ってるけど全然滑ってるのも好き」
「なにそれひどい」薫も思わず微笑む。
「どう?行きたい?」
「でも私にはまだ早いかな。一人で練習してから考えるかも」
「やっぱりなあ。かおるんは頭が固いよ」
「固い?」
「行ってみて、試してみればいいんだよ。何事も挑戦!」
「そうかなあ」
「ま、とりあえず作戦は一つ思いついてるから。放課後はよろしくね」
「うん」
特に疑いもせず、薫はその作戦について説明を受ける。




 放課後。
 早乙女薫は女子保健室に来ていた。
「モテの神様を呼んできたわ。保健室のベッドに下着だけつけてスタンバってて。」
 ゆかりは金髪をいじりながら目を逸らして言い放った。
 わけのわからない指示だったが、あまり頓着しなかった。
 というわけで薫は、保健室のベッドに、手持ち無沙汰に座っていた。

 授業が終わった、15分後。
 この学校の保健室は男女分かれていることもあり、女子の保健室はいつもだべり場と化していた。
 隣の相談室も然り。若くて可愛い保健医には囲いの生徒がたくさんついている。
 しかし今日は静かである。保健室には薫しかいない。
 相談室の方に集まっているのだろうか?
 普通なら落ち着かないこの状況。薫は動じていなかった。
 そして、控えめな音を立てて保健室のドアが開く。
「早乙女さん、いるかしら」
「はい」
 薫は背筋を伸ばした。
 ひょこっとカーテンのスキマから顔を出した生徒がいる。
「初めまして。隣のクラスの舞です」
「薫です」
 お互いぺこりとお辞儀をする。
「ほんとに下着なんですね」
舞がふふふと笑う。
 その表情に一種の下種さを感じる。
「じゃ、横になって、目を瞑って」
 これはマズいことになってきたぞ。薫は内心そう思っていた。
 だがもう遅い。観念して仰向けになり、目を瞑る。
「薫さんはさ、男子についてどう思ってる?」
「別になんとも思ってないです」
「そうかしら。ちょっと位カッコいいと思う子はいない?」
「いません」
「ふむ。じゃあ逆にカッコいいと思う女性はいる?」
「…。います」
「どんな方?」
「髪が長くて。大人っぽい人です」
「なるほど。年上だよね?」
「そうですね」
 舞はぱちぱちと手を叩く。
「結構。結構ですわ」
 
「これからね、貴方にはちょっとした魔法を掛けます」
「はい」
「目を瞑ったまま、体を起こして」
「はい」
薫の後ろにもぞもぞと誰かが近づいてくる。
背中に手が近づいてくる。これは、と思った瞬間、ブラが外された。
ほっそりとした手が薫の乳房を遠慮がちに触る。
耳元に熱い吐息がかかる。
冷たい指が薫の乳首を避け、くるりと円を描いたあと、へその周りを一周し、背中をすーっとなぞっていく。
いやらしいことをされている実感はあった。
が、薫は特に興奮もしないし、恥じらいも感じなかった。

間が空く。
「はあ」
舞はため息をついた。
「どうしたんですか?」
「ごめんね。こんなことにつき合わせて」
「いえ」
「服、着ていいよ」
「目は開けてもいいですか?」
「ん?ああ。うん。オッケー」
薫はのそのそとベッドの横に畳んであった制服に袖を通す。
「で、どうでした?」
「どうって?」舞は疲れきった表情で答えた。
「何か分かったんじゃないですか?」
「…」
薫は首をかしげる。舞はぎゅっと唇をかみ締めて、ピシャッと薫の頬を叩いた。
薫が困惑していると、舞は涙目で走って保健室を出て行った。
何が行われているのだ。


その時、部屋の角のロッカーがゴソゴソと音を立てて、中から二人が飛び出してきた。
「やあ、お疲れ様」
スッキリした表情…の保健医と、顔を真っ赤にして制服の乱れたゆかりだった。
「そんなところで何してたんですか」
「何って、ナニよ」
保健医はふんぞり返って言い返した。
何かのギャグだろうか。
ゆかりは息を整えて、薫に話しかける。
「どうだった」
「どうって言われても。別に何も」
「あなたレズに襲われたのよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと。薫男に興味無さそうだから、女が好きなのかなと思って」
「ゆかりが刺客に襲わせたわけね」
と、保健医が横から口を挟む。
「そういえば自己紹介したっけ?私が保健室の天使、天使よ。天使って書いてあまつかね」
「天使先生ですね。薫です」
「うーん。その秘めたる意思はレズの意思ではなかったか」
「秘めたる意思?」
「いや、言葉通りの意味なんだけど」

「ゆかりはいい線行ってたわ」
天使は満足そうに言い放った。
「ありがとうございます」
ゆかりは顔を赤らめる。
「うん、薫のモテモテ作戦、第1回から失敗ね」
「ま、気長にやりましょう」天使はまたふんぞり返って言った。

       

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