俺が魔王を倒そうと思ったのは、決して世界のためとかそんな大義名分ではなかった。
確かに俺の人生は最悪だった。
俺が幼いころから父親はパチンコ依存症で、毎日狂ったように一日中〇ハンに通っていた。
パチンコをするお金が無くなると、母親に親戚中からお金をかき集めて来いと強要し、それを断ると「お前はただの道具だ!ただの一度も人間とは思っちゃいねえ!」と母親の顔が変形するまで殴り続けた。
そんな時に俺が母親の味方になればよかったのだが、子供の頃の俺には父親は絶対的恐怖で、そんなものに立ち向かう勇気がなかった。
やがて父親の暴力は俺にも及ぶようになった。
ただうずくまって暴力の嵐が去っていくのを待つだけだった。
父親を殺したいと何度も思った。
そんな父親も、ある日癌であっけなく死んだ。借金だけを残して。
でもこれで、俺も母親も、もう父の暴力に怯えなくてもすむ。
少なくとも俺はそう思っていた。
しかし父親の葬式の数日後、母も首を吊って後追い自殺した。
俺にはわからなかった。母親がなぜ自殺したのか。実の子供の俺と共に生きていくよりも、ろくでなしの父親を選んで後を追ったのか?
俺には何もわからなかった。
その後俺は母方の祖父の家で生活するようになった。
しかし俺はもう何も信じられなくなって、他人に心を閉ざしていた。
こんなに苦しいのに、なんで俺の心は壊れないんだ。なんで俺は自我を保っていられる?
何度も何度もそう思ったが、その時点で俺の心はもう壊れていたのかもしれない。
そして俺は引きこもりになった。
やがて祖父も死んだが、祖父には母親しか子供がいなかったため、祖父の遺産はすべて俺が相続するはずだった。
しかし、ある日俺の部屋に祖父の弟と名乗る人と共に複数の男たちが押し入ってきて、俺を精神病院に入院させると言い出した。
俺は抵抗しようとしたが、長年の引きこもり暮らしで体力が衰え、複数の男たちに肩を掴まれて車に乗せられて精神病院に強制入院させられた。
その後祖父の遺産は後見人となった弟が管理することになっと。
俺は6年間。精神病院にいたらしいが、そのころの記憶はうろ覚えでよく覚えていない。
俺が精神病院に入院している間に、祖父の財産はすべて祖父の弟に奪われていた。
住む家も失い途方に暮れてさ迷っていると、子供と父親が仲良く公園でキャッチボールをしている姿が目に映った。
俺にもあんな優しい父親がいてくれたら、そう考えていたら目から自然に涙があふれていた。
そんな時だった。
父親の投げたボールが勢い余って車道に転がっていってしまったのだ。
転がるボールを追いかける子供は、車道を走るダンプカーの目の前に飛び出していた。
その時俺は、俺自身が信じられない行動をとっていた。
俺はとっさに車道に走り出し、子供の襟首を掴んでそのまま全力で歩道に放り投げようとしたのだ。
しかし、俺が命を懸けた行動ですら、結局子供を助けることができなかった。
結局俺は何もできない、誰も助けることもできない、価値のないゴミのような存在だったのか?
そうじゃないことをこの世界で証明したい。
俺は誰かを救える。世界に存在する意味のある人間だと、今度こそ証明したい。ただそれだけのために、自分自身のために、魔王を倒す。
そう決めたんだ。
第二話完