Neetel Inside ニートノベル
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「起きてください。起きて、また一緒に遊んでください」

 咲夜の消え入りそうな嘆願するような声が渉の心にさらなる波紋を広げる。

 皆が渉を囲んでいる。ありえない光景が繰り広げられている。

 そこでは何もかもがまるで逆転しているようだった。見向きもされないものと賞賛を浴びるもの。現実的なものと非現実的なもの。なにか図りしえない人智を超越したことが起きていた。この個性的で存在感のある上妻家の人々に、クラスの人間達は気後れするばかりだった。

 渉が目を覚ましたことにクラスの人間達は驚いていたがどうでもよかった。渉が目覚めてようが、植物状態だろうが、極論すれば死んでいようが興味はなかった。

 その中のスクール内という狭い中でカースト上位に存在する若者などは自分が無視されることに慣れておらず、みっともなく動揺していた。

「なっなんだお前ら!?今は浦賀のクラスメイトの俺達の面会時間だぞ。早く部外者は出ていけよ!」

 その言葉に部屋の空気は氷点下まで空気が冷たくなったようだった。その冷気は上妻家全員から放たれていた。
 絶対零度の視線を放つのはアリーシャだった。

 ライムグリーンの混じる金色の豊かな髪を持つアリーシャや、上妻家のは周囲の現実感溢れる床や、ベッドや、空調機、テレビ、そしてクラスメイト達と対比するように存在している。
 アリーシャの真紅の瞳が冷たくクラス人間達を見据えた。ぞくっとするような美しさで睨まれて、クラスの人間達はたじろいだ。

「あなた達は何なんですか?非常識ですねぇ。いい大人もいるようですが面会時間は守って下さい」

 教師が言った。
 これに答えたのは黄土色のフロッグコートを着こなした、紳士だった。

「ええ、申し訳ありません。我々には時間がなかったもので……」

 その紳士は神威だった。深みのある落ち着いた声で答える神威に退く気はもちろんなかった。強固に受けられたが、教師が非常識なこの連中のことを一目で嫌いになった。その苛立ちが教師に持論の展開を促した。

「私の賢いも言った通り、今は我々の面会時間ですよ。それなのに図々しくもずかずかと乗り込んできて、社会のルールを知らないのか。まったく。だいたいあなた達はなんなんだ。まだ聞いてないぞ」

 これには理性的な声と口調で藍子が一刀両断して答えた。藍子は時として、特に何かを断ずる時に数学の公式ように短い言葉を使うことを信条としていた。頭の回転の速い藍子が言ったのは簡潔なことだった。すなわち、

「家族です」

 と。にっこりと微笑みながら。

       

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