健康的な肌色を取り戻した渉。
クラスの人間達は先程から繰り広げられる超常現象としか思えない状況にただひたすら畏怖し、パニックになっていた。
爆弾かなにかを使われたのか窓はぶち壊れ、自分たちはテロリストに命を握られているという認識だった。
「警察……警察………」
小声でぶつぶつ言う浦賀夫妻。びしょ濡れで地面に伏せ、聞き取れぬ青ざめて呪詛を呟いている。
「さあ」
女神のような微笑みで未来がベッドの上の渉に手を差しのべる。それは天使のように輝かしい。全ての理想がそこにはあった。渉は手をとった。久尊寺や、アリーシャや、未来や、神威達に支えられ、渉は立ち上がる。
「なんだか……変な、本当に変な感じだよ。俺しか知らないはずの皆が、ここにいるのも変な感じだし、俺がここにこうやってまた動いてるのも、変な感じだ」
渉は苦笑した。
「うまく言えないけど」
「前例がないことはうまく説明することが難しいものだよ渉くん。何故なら今まで見たことも聞いたこともなく、知っているのは自分だけということなのだから」
「みんな……その、えと……どうして?」
何から聞いたらいいのか分からない。老健さを魅せる笑い方でそれに答えたのは白髪の理知的な漆だった。
「どうしてとはおやおや……水臭いですね。私の孫に会いに来てはいけなかったでしょうかね」
さらに若い茶色の目の二枚目の茶色のコートを着こなす、春秋が言う。
「一人でこんな辛気臭いところに閉じ込められて、毎日いびられてる日々も飽き飽きしてるだろうと思って解放しにきたんだよ」
「にしても、よくガンバったな」
真に感嘆した、尊敬といたわりと愛とがこもった真剣な声音だ。
春秋がその大きな手で渉の髪の毛を乱暴に撫でる。誰かに触れられることがこんなに嬉しいことだと、渉は今日初めて知ったような気がした。
「どうして……と聞かれたらこの男共がだいたい言った通りなのだよ」
その綺麗な顎先に指をあて、目を閉じうんうんと頷くアリーシャ。
立ち上がった渉を囲むようにしている皆の中の一人である藍子が話す。
「どうやってここまで来ることができたかを説明するわ。あの黒いものの正体から話すことになるわ。」