Neetel Inside ニートノベル
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 銃声が止んだ。春秋は息を切らして銃をまだ浦賀夫妻達に向けて構え続けている。銃口から立ち上る硝煙が春秋のまだくすぶる怒りのようだった。

 渉の病室の周りはもう笑いたくなるくらいの状況になっていた。原型をとどめていない。弾丸がばらまかれて壁に銃弾がいくつも亀裂を作ってめり込んでいる。
 ここを中心としていくつもの力が収束していて、さながら異界とかしているようだ。

 ドラゴンの口の奥から青と赤の層に別れた光がチロチロと出ていた。灼熱の焔。

「えっ。さすがにこれはやばくね?」

 俺がそう言うと大人組は無問題という顔で見ているが、子供組はやや顔が引きつって、今にも放たれようとしている何千度になるか見当もつかない炎を見ている。

「あれがもろにあたったら丸焦げだぞ!」

 誰もが分かっていることをさらに口に出してちゃんと認識させてくれたのは春日井だった。汗が伝っている。

「これ僕らも巻き込まれるよね」

 爽やかな顔立ちの小夜鳴の頬にも汗が伝う。

「絶対助からねぇぜ?」

 俺がさらに皆分かってるだろうことを重ねた。

「問題ない。防御璧を張れば私達にダメージは通らない」

 少年三人の弱音?に胸を張って答えるのはアリーシャだった。

「さすがアリーシャ……でも俺達が助かっても……」

 チラッと春日井は蔦に縛られて動けない人々を見ながら言った。
 少年三人は何もそこまでしなくていいんじゃと思っていたが、真歌と春秋は血気盛んだった。二人は、

「いっけぇええ!」

「やっちまえ!ドラゴンのじいさん!」

 などと言っている。

「ひいいいいいいいいっ!」

 こうなると声を上げて怖がるクラスメイト達。

「やってしまうがいいわ!その後こいつらのドクロを盃にして祝杯を挙げるわ!」

「おっ!真歌君ナイスアイディア!」

 真歌の暴言に春秋が大人らしからないフットワークで賛成する。ドクロを盃発言に恐れおののくクラスメイト達。

「もうどこからつっこんでいいやら……」

 カオスな空間である。浦賀夫妻達、一般人は本当にそれをやられると思っているので小便を漏らしてもおかしくないほどびびっている。ヤクザより怖いと思っている。

 とうとうドラゴンの口から灼熱の火球が放たれた。カッと、最大級の光があたりを照らす。鳴り響く爆音。この大きな建物がズズズンと大きく揺さぶられる。しかし、その火球がクラスメイト達に直撃することは無かった。斜め上にゴバァッと放たれた特大のそれは病院のコンクリートから骨組みまでを溶かして青空に消えた。大気圏外まで突き抜けたのではないだろうか。

 渉は瞬きぐらいの刹那の間に『世界改編』を行い、他の入院患者への影響を全てなかったことにした。

 青ざめを通り越して土気色の顔になる哀れなクラスメイト達。
 熱線でクラスメイト達の髪の毛はチリチリになっていた。教師のロン毛などに至っては、その登頂部は、ほぼ焼け野原である。キューティクルの似合わないロン毛が一瞬にして根本から焼き払われた。ご愁傷さまな惨状である。
 春秋と真歌とドラゴンが揃って大爆笑するので、俺も笑ってしまった。他のみんなもつられて笑ってる。

「俺と関わったばっかりにな」

 この後遊びに行くどころではない。

「さあ皆のもの儂の背に乗るがいい!いざ帰らん!儂らの世界へ!」

 ドラゴンが威勢の良い雄叫びを上げる。

「よぉし。帰ろう!」

 アリーシャが手にしていたサーベルの切っ先を外に向けて言う。
 誰ともなく、助走をつけて開いた壁からドラゴンの背に、ぴょんぴょんと飛び乗っていく。渉もみんなに習って走って飛び乗った。………走ったり跳んだりするのって楽しい。と内心で渉は思っていた。

 龍の背の鱗は以外なことに絨毯のように柔らかい部分が多かった。みんなと一緒に刺にしがみつく。外に出ると黒いブラックホールのような穴が見えた。

「あれが次元の裂け目か」

 渉が言った。

「あーだいぶすっきりした。まだやりたりないけど」

 真歌が恐ろしいことを言う。

「渉君奪還作戦はほぼ成功ですわね」

 黒繭が淑女のようにニコニコして言った。

 その時病室に渉の担当の医者が駆け込んできた。次期院長と噂される彼はこの惨状に腐ったヒストリーを起こす。

「もう少しで、本部の審査があるって時に問題を起こしやがって!死ね!死ね!俺の責任問題になるんだよ!!」

 順調にキャリアアップしてきた彼だったがこの責任をとらされるので、左遷はほぼ確定していた。彼は田舎の病院で一生暮らすこととなる。もう浮かび上がれない。医者はその事にいたく憤激している。順調な出世が石ころにつまずいておしゃかになってしまった。

「今まで世話をしてやったのに~~!恩を仇で返しやがって~~~!」

 生かさず殺さず、金ずるにもならないのでないがしろにしてきたわけだが、どうやら医者はそう思ってきたようだった。飛び去っている最中医者は喚き続けた。
 渉は無視することに決めた。ホームはすぐそこなのだから!しかし、

「「「え!?」」」

 渉と未来と春日井と小夜鳴と真下と咲夜が口を揃えて疑問詩を口にした。ドラゴンの背から二つの影が飛び降りたからだった。

 ダン!!と大きなスタンプ音を奏でて着地した一つの白い影。もう一つの影は着地の勢いそのまま、腰の入った流麗な右ストレートを医者におみまいした。春秋だった。イケメンがイケメンをぶん殴った。

「うるせー馬鹿」

 無様に薄汚いイケメンが宙を舞った。 みしり、と拳がすごい密度で握られる。
 主なき病室に着地したもう一人は久尊寺博士だった。

「久尊寺博士も痛めつけちゃう?やりやすいように支えといてやるよ」

 春秋が医者の脇を両手で掴んで久尊寺博士と向き合う。

「ふーむ……春秋のパンチで意識朦朧と言ったところだな。おい起きたまえ」

 二、三発医者の頬を叩く久尊寺。

「おぇ?」

 まだまだ朦朧としていたが返事はした。
 白衣と白衣が向かい合う。

「いいか?腐った利権争いの傘の元で育ってきた君の耳の届くか分からんが言いたいことがあるので言う。君が渉君に適当な診察をしていたことが問題だったのだ。それを棚に上げていざ報復にこられたらこれかね。だいたいMRIを使って脳が正常に働いているかも確認しないで診断をするなどとは医者の風上にも置けない。まともな良心が少しでもあるのなら医者を今すぐ辞めたまえ」

 ぐっと言葉に詰まる医者。何も言い返せないのだ。

 それから旋回して春秋と久尊寺を迎えに行って、二人とも乗り込んだ。今度こそ上昇していく。

「おっ降りてこい!浦賀渉!お前がいればまだ責任から逃れられる!!」

 二人のメッセージがまったく届かなかったようで、憤怒の形相で医者が上に向かって怒鳴る。ドラゴンは飛び去る。

「「「渉の名前は上妻渉だ!!」」」

 上妻家のみんなが口を揃えて言った。太陽の光にかざされた、自由に空を泳ぐドラゴンの背の上での宣言だった。

       

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