Neetel Inside ニートノベル
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光だった。広範囲に降り注ぎ、神の如き不可避の攻撃で黒霧を殲滅する。その降り注ぐ光の中でアリーシャは浮遊している。天から降臨した天使のような姿だった。

 一個師団以上の戦力を持って戦いに望んでいた上妻家だったが、それ以上に楽しんで戦っていた事が彼等が彼等であるゆえんだった。

 島の黒霧をほぼ殲滅した。

 みんなが一致団結し、戦っていたからだった。

 みんなは徐々に同じ場所に集まってきた。数人が残った黒霧が隠れてないか探し、見つけて倒す、ということをしていたが、大多数は手持ち無沙汰だった。

「ふむ……だいたい片付いたのではないかね」

 久尊寺博士がKR-71の機体のフロントの装甲を開いた状態でみんなに言った。

「ええ。そうね。でも感じる?向こうの方に嫌な感じの気配がするんだけど」

 特に疲れを見せてない美優が西の空を指しながら言った。その方面は森林部だった。久尊寺博士もそちらを見た。何かがある事が分かったがそれがなんなのか森に隠れてよく分からない。ただ嫌な感じがする、という気配がした。

「うむ。しかし、渉君のこの力はすごい…………互いの健康状態や、研ぎ澄まされた感覚すらリンクしているではないか。お互いが齟齬なく理解し合える事が究極的な到達点なのではないだろうか………今私達が感じてる五感の共有はその通過点ということに……」

 久尊寺博士はコア・ライダーの特性に興味津々だった。その後もぶつぶつと一人で考察などを呟いた。
 そんな博士を端に見つつ、皆は森の方をずっと見ていた。
 今この場には神威と藍子、アリーシャとそして渉がいない。久尊寺達はこの四人が現在、森に行っていて、その脅威に立ち向かっていることをコアライダーの力で解っていた。
 あの四人にその脅威を任せていた。もちろん心配している者もいた。そして自分が足でまといになると自覚している者もいた。

「彼らを信じよう。神威と藍子とアリーシャと渉君。この四人ならどんな敵にも負けんはずだ。この島での戦いならば我々は最強だ」

 久尊寺博士はこの四人を信じた。

「(勝ちたまえ渉君…………!)」


  ◇ ◇


 森の内部。渉、アリーシャ、神威、藍子は固まって駆けていた。渉は内心を痛めていた。森の内部の損傷が酷いからだった。木々が枯れている。森のざわめきを渉はずっと感じていた。幼い子供の思念のような悲鳴も渉は聴いていた。
 俊敏なまさにましらのような動きで渉たちは嫌な気配のする方に向かっている。かなりのスピードだ。

 その時、今までで一番大きい、つんざくような悲鳴を聴いた。渉、アリーシャ、神威、藍子は意識することもなく、動きが一瞬止まった。

「この森で一体何をしてやがるんだ……!」

 渉がその不吉さを言葉にした。何かをしていると口に出すことで、出来事を限定し、脅威に形を与えることで、それを認識するということをした。立ち向かいたくないほどの敵に渉は言葉に出すことで立ち向かっていた。

「……」

 神威は無言だ。しかし、その口元は固く締められている。

 渉達が猛スピードで進むと、ある破壊の跡を見つけた。
 樹齢幾千年の大木がいくつも倒れてしまっている。何か大きなものが全てを蹂躙していったようだった。

 ここに来るまでで一番口数が多かったのは藍子だった。もちろん藍子のそれは無駄口などではなく、冷静な状況の分析とみんなに対するいたわりであることが渉達は解っていた。

 渉は前を向くアリーシャをちらりと見た。彼女の真紅の瞳の奥では熱い怒りが溢れんばかりに燃えたぎっている。渉はその理由をすぐに知ることとなる。
 僅かに進んだ先には、どす黒い体の岩山のような黒霧がいた。その黒霧は芋虫のような形をしており、頭か尻尾か判別はできないし、どうでもいいが、体の先の方で吸盤のような細長い形のものがゆらゆらと揺れている。忌まわしく、おぞましいものを渉達は見た。その吸盤のような形の体を使い、微精霊を飲み込んでいってるのだ。アリーシャは間髪入れずに気付いていたようだし、渉は一呼吸遅れてから気がついた。渉は目を凝らし、微精霊の吸い込まれる姿を発見した。

 先ほどから聞こえていた悲鳴はやはり微精霊のものだった。微精霊を食い続けたこいつは形すら持ち始めていた。

「止めろ!!」

 隣でアリーシャが激高して言った。渉は黒霧にはどんな言葉も通じないだろうということを解っていた。それをアリーシャも解っていることは渉にコアライダーで伝わっていた。しかし彼女は怒りが大きすぎて言わずにはいられなかった。その大きな怒りが痛いほどに渉にコアライダーを介して伝わってきた。

「おおおおおおっ!!」

 彼女は雄叫びを上げ、この黒霧の凶行を一刻でも早く止めんとするべく、切りかかる。人と精霊に害なすものを討つというの強い信念を渉は感じた。

 渉はアリーシャが怒っている分冷静に努めるべきだと一瞬は判断したが、すぐ後ろに神威と藍子の存在を感じていたので、その必要は無いと思い直した。つまり、渉も思いっきり怒りに身を任せた。

「殺す!」

 空間中に僅かしか漂っていない微精霊だったが、渉の脅威のエネルギー循環率が、最大級の魔力を産んだ。渉の周囲が僅かに蘇った微精霊達で溢れた。大小の光が瞬き、空にたゆたっている。微精霊の嬉しそうな声を心地よく聴きながら、渉は練った力をアリーシャに渡し続けた。神威と藍子もコアライダーにより、それに加担することができた。渉の展開力は凄まじかった。
 アリーシャは自身の力を全て刃に乗せた。力が溢れ出るように剣が光を放ち始める。

「おおおおおおおおっ!!」

 渉達の魔力と精霊王アリーシャ自身と、四大精霊という強力な魔力で練った極大な威力の全てを切り裂く精霊王の刀を振り下ろした。

「うおおおおおおおおっ!!」

 渉も思いっきり魔力を注ぎ込んだ。あまりにも込められた魔力に、術式が破綻しかねない最後の緊張の瞬間であったのだ。
 岩のような巨体が頂上から地面までを全てを両断した。ずずぅんとその巨体が崩れ落ちる。二等に両断された切断面から、黒霧が消滅してゆく。

 四人とも喋らなかった。無言でお互いに対する思いを目で伝えた。
 そしてパァン!と手を思いっきり叩きあった。
 歓声が上がった。でかぶつを倒したことは待機していたみんなにもコアライダーで伝わり、そこでも歓声が沸き立った。


       

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