「(あれは全部幻想だったのか……未だ信じられない。嘘だろ?こんなの。嘘だって言ってくれよ…………あんなにリアルで、会話もできたのに全部が俺の妄想だった…………)」
「(本当には誰もいないんだ……)」
「(誰もいないんだった)」
「(俺は知ってた。誰もいないってことを)」
看護師や医者の会話や、テレビの音から自分の妄想に肉を付けていったんだった。
「(誰もいない……)」
「(俺を愛してくれる人は……)」
「(全部ウソだ。俺が俺についた都合のいいウソ)」
「(あー……)」
「浦賀くん。面会ですよ」
機械的にそう言う看護師。
「(面会?)」
どういうことだろう。と疑問に思った。一体誰が?わずかに心が跳ね上がるような気がした。
「こんにちわ浦賀くん久しぶりだね」
この声には聞き覚えがあった。たくさんの生徒の前で教壇ごしに教師が話すような声だった。
「みんなが心配しておみまいに来てくれたぞ!」
「(分かった)」
とてもがっがりした。中学校の教師だった。だがそれ以上に聞き流せない言葉があった。
「(みんな?)」
教師の言葉を合図のようにぞろぞろと病室に誰かが入ってきた。体重の軽い歩き方。この歩き方はまるで社会科見学に訪れた生徒たちのような抑制された実に無関心な歩き方だった。そして退屈そうな。
それから彼らは何か白々しいことを言った。何を言ってるのか理解出来なかった。
教師が言ったこの言葉は覚えている。
「あんなにいい親御さんに迷惑をかけて、俺は恥ずかしいよ。迷惑ばっかかけて……このクズが」
「(いい親御さん?何言ってんだコイツ)」
「すごい笑える」
「ひっど~」
十数人の若い男女が病室にいる。彼らは好奇と嘲笑の目線でベッドに横たわる少年を見ていた。彼らは渉の同級生である。
「いや~もともといけすかないやつだったけどさ。こんなふうになるってことはまぁしょうがないことだったよな。やっぱ神様は見るとこ見てるわ」
「だよね~なんつうか自業自得っていうか」
「こいつが廃人になって俺は嬉しいわ~」
「もう目が覚めないでほしいわ~」
「先生が内申にいいこと書いてくれるから来ただけだしねー」
「帰りどこ行くんだっけ?これ学校の行事扱いだから遊んでもバレないし」
「それそれ。浦賀くんにマジ感謝だわ。こういうのたびたびやってくんないかなぁ。そしたら最高なのに」
「つーか早く帰りたいし」
「ちゃんと勉強しとけよな~受験生なんだぞお前ら」
教師が呆れたように生徒達に言う。
渉はもちろん高校など行くことはできない。
「(いいから……もういいから……早く出ていってくれないかな……)」
それだけを考えていた。この場の誰もがもう渉に関心はない。話題はこれからどこで遊ぶかで持ちきりだった。普段は受験生なのでストレスがだいぶたまっているのだろう。
「(しょうがない。しょうがないんだ)」
「(みんな遊びたい盛りなんだし……)」