Neetel Inside ニートノベル
表紙

奇跡のアイランド
第十四話

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  渉は普通の何倍も体が軽くなった。光神化はそれのホストとなる人間がいればネットワークのように人と人がリンクすることができる。渉は感覚同調の青白い光を伸ばした。それでみんなを覆った。帯電するようにみんなの体に青白い光が体から発せられている。

「これをコア・ライダーと呼ぶか」

 渉は自分の新たな力に名付けた。

  黒霧が四方から迫ってくる。みんなはその攻撃をそれぞれ別の場所に避けた。一回みんなはバラバラになった。しかし、渉のコア・ライダーでみんなはリンクしていた。

 ここに島の地表での戦いが始まった。
 武器が必要な者は洋館へと取りに戻った。


  ◇ ◇


 春秋と真歌はダダダダダッと島を猛スピードで駆けている。
 黒霧で溢れかえっている島の地表の実態のない影を吹き飛ばしながら進む。
 二人はアクロバティックな動きで襲い来る黒霧を次々と屠る。春秋がスライディングで何十mものラインにいる黒霧の足元をすくったと思うと、上妻家の洋館から持ってきた大剣を人間とは思えない膂力で振り回し、削る。それも右腕だけでだ。左腕に持った銃を放射状に乱射する。影に着弾すると

 パン!!

 と音がして影は飛散し消えていく。それが

 パパパパパ!!

 と連続した。

 黒霧の退治が、その影が消えることで島や、世界そのものが浄化されていくようだった。
 

  ◇ ◇


 渉は高速で走っている途中だ。流石に春日井も小夜鳴もぴったりついてくる。
 渉は灼熱の右腕と全てをデリートする左腕を黒霧に叩き込む。全身をどう動かしたらいいか分かる。分かるのは自分の体のことだけではない。そこが驚異的なのだが、渉は春日井と小夜鳴の超達人級の動きのことも分かった。筋肉の動き、次の意図など。
 この三人は全身に感覚から全てがリンクしており、連携も完璧になるのだった。三人の少年の口元に自然と笑みが浮かぶ。
 気持ちのいい連携だ。春日井と小夜鳴はそれぞれ自分の持つ名刀を振るっている。
 常人の何十倍もの身体能力を持った者達が完璧な連携で動いている。躍動する若い肉体。磨きどころはもちろんあるが、三人は初めてやるセッションをとても楽しんでいた。煌めく刃をすれすれで避ける渉。その刃は黒霧を切り裂き消滅させる。
 
  快刀乱麻に敵を撃破していく三人の前に新たな敵が立ちはだかった。 影がもぞもぞ、ずもも、と集まって行き、大きな巨人のような出で立ちの黒霧となった。ぐわあああっと三人に迫る巨大黒霧。三人の少年はその圧力を正面から受け止めた。
 小夜鳴と春日井は剣を鞘に収め、腰を沈めた。その意図を二人の視線から渉が読み取る。渉は助走し、春日井と小夜鳴の掌に飛び乗った。二人は思いっきり腕を持ち上げた。すくい上げるような格好だ。

「「うおおおおおおおおおおおっ!!」」

 二人が力いっぱい腕を振り上げる。その掌に乗った渉はその巨人の身長12m分飛んだ。そして巨体にしがみつくと渉は離さなかった。灼熱の右腕と絶対消去の左腕が猛威を振るう。黒霧が追い切れないほどの速度で削る。何度も何度も。全てが消え去るまで渉は腕を振り続けた。巨人はなにかする前に上半身から下半身まですべてが掻き消えた。渉は足首まで降りるような速度で黒霧の巨体そかき消してゆき、ザン!と右腕をついて渉は着地した。

 黒い煙が立ち込める。その煙すら三十秒もすれば完全に消えて失せる。その中に渉は光り輝きながら立っていた。


  ◇ ◇


 一方、南東に飛んだ咲夜とシュラと漆と未来は、肉弾戦よりも術式を多用して黒霧を撃退していった。未来達はたくさんの精霊術を立て続けに発動している。エネルギーが未来達の中を循環していって微精霊も嬉しそうにしている。あちこちで爆発が起きている。漆がタクトを振った先がどんどん爆発しているのだ。咲夜も長い時間をかけて術式を練り上げ、レーザー光線のようなビーム粒子のようなものを放ち立派に黒霧を消滅させている。シュラが咲夜と強くリンクしている。シュラは単体で精霊術の術式を組み上げることは出来ないが、エネルギーや、視野角の拡大など、様々な補助の役割を担っていた。

 未来達も渉を中心としたコア・ライダーに繋がっていた。そのおかげで誰がどこにいるのか分かったし、誰がどんな状態なのか細かく知ることができていた。


  ◇ ◇


 一方南南東では三人の少女が戦っていた。真歌と美優と真下だった。三人の美少女は勇ましく闇に立ち向かう。闇を睨む者を光はよく見ているものだ。真歌は地割れを起こしながらも噴出させた植物を黒霧に突き刺したり、締め付けたりさせた。不敵に微笑みながら自在に植物を操る真歌。 植物が黒霧を追尾し、殲滅する。 このままでも十分な威力を誇っているが、真歌の命令に従い植物が徐々に動きを止めていった。攻撃を止めれば、黒霧がゴキブリの巣をつついたようにわらわらと溢れ、三人に迫る。
 真下の精霊術の術式が発動した。その術式は一風変わったものだった。何重もの輪が空中に重なって出現した。真下の側からどんどん外に向かって大きくなるような輪っかだった。その輪の一番小さなところで真下が咽を震わせ、特殊なデシベルの声を放つ。その術式の見た目と役割はメガホンに似ていた。が、絶対的な違いがあった。不思議なことが起きた。真下の近くではその真下の『声』は誰にも聞こえなかった。だが音は人間の耳には届かない領域のところで無限に累乗して、大きくなっていった。そして、植物の上でカサカサとこちらに大挙して向かってくる黒霧に『着弾』した。ビリリっと黒霧達が震えたかと思うとズタズタにはじけ飛んでいた。真下は音の迫撃砲をどんどん黒霧に着弾してはじけ飛ばしていった。この術式には本当に微妙な調節が必要だったので真下は一発音を放つ度に、新しい輪を構築した。この術式は黒霧の位置との距離と輪の角度、大きさの調整が非常に難しかった。どこかが上手くいってないと、音が届かなったり、威力が低かったりする。頭の中はめまぐるしく演算処理を行っていたが、真下は誰かの為にカバーをするような性格だったので頑張って計算していた。それゆえ真下は人の心に簡単に受け入れられる魂をしている。

 その甲斐あって、真歌の術式が組み上がった。植物のその茎の部分から一斉につぼみを生やし、花を咲かせる。赤い薔薇に似たその花から花粉を発生させ、黒霧達を痺れさせる。その痺れ粉で黒霧はほとんど融解した。

 黒霧の黒い闇は何の表情もないただの闇だった。その闇が最後まで悪意を絶やすことなく三人の生命に迫ってくる。その膨大な量は例えるなら雨のようにきりというものがなく、雨雲のようにびっしりと覆い尽くしてきた。
 蛆虫やフナムシのようにわらわらといやらしくうねり、迫る黒霧。

  最後に残った僅かな黒霧は、美優の精霊術で撃退されることとなった。 美優の精霊術は虹のような色彩の光弾を空中に描いた砲台から次々と飛ばして行くものだった。これは彼女のクレヨン遊びから発展させた精霊術だった。

 黒霧達は恐れをなした鼠のように、彼女達に向かうのを止め、反対側に逃げていった。

 三人はやったねとハイタッチをし合った。


 
  ◇ ◇

 
 一方、久尊寺博士は自分の研究所の格納庫に置いておいた大型の肉食獣の形をした機械に搭乗していた。白銀のその機体のシルバーフレームは流麗な自然の動物の良さをふんだんに取り入れていた。機体番号はKR-71。

「私は元々科学者なのでな。機械の方が肌に合うのだ」

 久尊寺博士がコックピット内部でひとり言を呟く。違う格納庫から黒い同じような機械の獣に搭乗した黒繭が現れた。こちらの機体は漆黒のボディをしている。これは黒繭の好みだった。

「黒繭くん。私は久々に君の人形遊びが見たかったのだが。もうやらないのかね。彼女達の名前はフレディとマキュリーだったかね?」

「フランとマーズですわ! 私の人形達の良さをこれっぽっちも理解できないあなたの前で披露する気にもなれませんわね」

 黒繭の声が電子音に変換され、久尊寺の耳に届く。
 人形のフランとマーズは黒繭の十八番の精霊術でそのマリオネット捌きは凄まじいものだ。黒繭の目にはは天使のように美しく、気高く、エレガントに写っているが、攻撃対象にとっては全てを殲滅すその様は魔王のようになる。この人形達は黒繭の人形遊びが原点となった精霊術だった。だが今回黒繭には人形を使わずに、ハウンドドッグ、アリスに搭乗している。

 KR-71とアリスは同時に地面を駆け出した。チーターのように二頭の鉄の獣は走り狂う。次々と黒霧を蹴散らしていった。

「ワハハハハハハ! これは楽しい!」

 無茶な機体の使い方を連続して行う久尊寺。突進された黒霧は次々に霧散していく。暗闇の中を白銀の獣が流星のように突き進んでいく。機体の脚のバネをギリギリまで使った天才の成す技だった。
 漆黒の機体、アリスも同じように、黒霧の壁をぶち抜き、はね飛ばして、勢いが少しも緩むことなく進む。

「嫌だ嫌だと常日頃から思ってますけど、こういうところが気があってしまうのですから困りものですわ……!」

 黒繭がコックピット内部で笑う。この二人もコア・ライダーの青い光りで包まれていた。渉の展開する、相互共感精霊術の補助を大きく受けていた。

 楽しそうなのは久尊寺や黒繭だけでなく、みんなが楽しそうに黒霧に立ち向かっていた。

     

光だった。広範囲に降り注ぎ、神の如き不可避の攻撃で黒霧を殲滅する。その降り注ぐ光の中でアリーシャは浮遊している。天から降臨した天使のような姿だった。

 一個師団以上の戦力を持って戦いに望んでいた上妻家だったが、それ以上に楽しんで戦っていた事が彼等が彼等であるゆえんだった。

 島の黒霧をほぼ殲滅した。

 みんなが一致団結し、戦っていたからだった。

 みんなは徐々に同じ場所に集まってきた。数人が残った黒霧が隠れてないか探し、見つけて倒す、ということをしていたが、大多数は手持ち無沙汰だった。

「ふむ……だいたい片付いたのではないかね」

 久尊寺博士がKR-71の機体のフロントの装甲を開いた状態でみんなに言った。

「ええ。そうね。でも感じる?向こうの方に嫌な感じの気配がするんだけど」

 特に疲れを見せてない美優が西の空を指しながら言った。その方面は森林部だった。久尊寺博士もそちらを見た。何かがある事が分かったがそれがなんなのか森に隠れてよく分からない。ただ嫌な感じがする、という気配がした。

「うむ。しかし、渉君のこの力はすごい…………互いの健康状態や、研ぎ澄まされた感覚すらリンクしているではないか。お互いが齟齬なく理解し合える事が究極的な到達点なのではないだろうか………今私達が感じてる五感の共有はその通過点ということに……」

 久尊寺博士はコア・ライダーの特性に興味津々だった。その後もぶつぶつと一人で考察などを呟いた。
 そんな博士を端に見つつ、皆は森の方をずっと見ていた。
 今この場には神威と藍子、アリーシャとそして渉がいない。久尊寺達はこの四人が現在、森に行っていて、その脅威に立ち向かっていることをコアライダーの力で解っていた。
 あの四人にその脅威を任せていた。もちろん心配している者もいた。そして自分が足でまといになると自覚している者もいた。

「彼らを信じよう。神威と藍子とアリーシャと渉君。この四人ならどんな敵にも負けんはずだ。この島での戦いならば我々は最強だ」

 久尊寺博士はこの四人を信じた。

「(勝ちたまえ渉君…………!)」


  ◇ ◇


 森の内部。渉、アリーシャ、神威、藍子は固まって駆けていた。渉は内心を痛めていた。森の内部の損傷が酷いからだった。木々が枯れている。森のざわめきを渉はずっと感じていた。幼い子供の思念のような悲鳴も渉は聴いていた。
 俊敏なまさにましらのような動きで渉たちは嫌な気配のする方に向かっている。かなりのスピードだ。

 その時、今までで一番大きい、つんざくような悲鳴を聴いた。渉、アリーシャ、神威、藍子は意識することもなく、動きが一瞬止まった。

「この森で一体何をしてやがるんだ……!」

 渉がその不吉さを言葉にした。何かをしていると口に出すことで、出来事を限定し、脅威に形を与えることで、それを認識するということをした。立ち向かいたくないほどの敵に渉は言葉に出すことで立ち向かっていた。

「……」

 神威は無言だ。しかし、その口元は固く締められている。

 渉達が猛スピードで進むと、ある破壊の跡を見つけた。
 樹齢幾千年の大木がいくつも倒れてしまっている。何か大きなものが全てを蹂躙していったようだった。

 ここに来るまでで一番口数が多かったのは藍子だった。もちろん藍子のそれは無駄口などではなく、冷静な状況の分析とみんなに対するいたわりであることが渉達は解っていた。

 渉は前を向くアリーシャをちらりと見た。彼女の真紅の瞳の奥では熱い怒りが溢れんばかりに燃えたぎっている。渉はその理由をすぐに知ることとなる。
 僅かに進んだ先には、どす黒い体の岩山のような黒霧がいた。その黒霧は芋虫のような形をしており、頭か尻尾か判別はできないし、どうでもいいが、体の先の方で吸盤のような細長い形のものがゆらゆらと揺れている。忌まわしく、おぞましいものを渉達は見た。その吸盤のような形の体を使い、微精霊を飲み込んでいってるのだ。アリーシャは間髪入れずに気付いていたようだし、渉は一呼吸遅れてから気がついた。渉は目を凝らし、微精霊の吸い込まれる姿を発見した。

 先ほどから聞こえていた悲鳴はやはり微精霊のものだった。微精霊を食い続けたこいつは形すら持ち始めていた。

「止めろ!!」

 隣でアリーシャが激高して言った。渉は黒霧にはどんな言葉も通じないだろうということを解っていた。それをアリーシャも解っていることは渉にコアライダーで伝わっていた。しかし彼女は怒りが大きすぎて言わずにはいられなかった。その大きな怒りが痛いほどに渉にコアライダーを介して伝わってきた。

「おおおおおおっ!!」

 彼女は雄叫びを上げ、この黒霧の凶行を一刻でも早く止めんとするべく、切りかかる。人と精霊に害なすものを討つというの強い信念を渉は感じた。

 渉はアリーシャが怒っている分冷静に努めるべきだと一瞬は判断したが、すぐ後ろに神威と藍子の存在を感じていたので、その必要は無いと思い直した。つまり、渉も思いっきり怒りに身を任せた。

「殺す!」

 空間中に僅かしか漂っていない微精霊だったが、渉の脅威のエネルギー循環率が、最大級の魔力を産んだ。渉の周囲が僅かに蘇った微精霊達で溢れた。大小の光が瞬き、空にたゆたっている。微精霊の嬉しそうな声を心地よく聴きながら、渉は練った力をアリーシャに渡し続けた。神威と藍子もコアライダーにより、それに加担することができた。渉の展開力は凄まじかった。
 アリーシャは自身の力を全て刃に乗せた。力が溢れ出るように剣が光を放ち始める。

「おおおおおおおおっ!!」

 渉達の魔力と精霊王アリーシャ自身と、四大精霊という強力な魔力で練った極大な威力の全てを切り裂く精霊王の刀を振り下ろした。

「うおおおおおおおおっ!!」

 渉も思いっきり魔力を注ぎ込んだ。あまりにも込められた魔力に、術式が破綻しかねない最後の緊張の瞬間であったのだ。
 岩のような巨体が頂上から地面までを全てを両断した。ずずぅんとその巨体が崩れ落ちる。二等に両断された切断面から、黒霧が消滅してゆく。

 四人とも喋らなかった。無言でお互いに対する思いを目で伝えた。
 そしてパァン!と手を思いっきり叩きあった。
 歓声が上がった。でかぶつを倒したことは待機していたみんなにもコアライダーで伝わり、そこでも歓声が沸き立った。


       

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Neetsha