Neetel Inside ニートノベル
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関東どんべえもたまにはいいよね
逆立ちする男

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 私は登下校の際に必ずその男の姿を目にすることとなる。
 その理由は単純、学校への道が彼のいる一本しかないのだ。いくら嫌でも、その道を通らないことには学校に行けないのでどうしようもないのだ。雨の日も晴れの日も、休みの日以外は、私は彼の姿を必ず目にすることとなる。
 さて、ここまで彼、彼と言ってきたが、その彼とはどんな人間なのか
 そのことについて説明していなかった。
 さて、ここで本題に入ろう。

 彼とは何者なのか
 名前は私も知らない。
 だが、彼はご近所ではとても有名な人で、私の知る限り全ての人からこう呼ばれていた。

 『逆立ちをする男』と。

 外見から察するに約三十~四十代
 髪の毛が一本も生えていないスキンヘッドで、ボクサーパンツ一丁だった。筋肉モリモリのマッチョメンだが、それは普通の物とは違った。何が違うかというと、両腕にだけやたらめったら筋肉が集中しているのだ。
 まるでゴリラか何かのように、お世辞にも人間の物には見えなかった。
 なぜそんな筋肉の付き方をしているのか

 その理由は単純
 名前の通り彼は常に逆立ちをしているのだ。

 失礼
 常にというと少し語弊がある。
 もちろん彼は人間である。逆立ちを続けるにも限界がある、たまに、たまにだが私が登下校中に持ってきたスポーツドリンクを飲みながら休んでいる姿を目にすることがある。五日に一回ぐらいのレアケースだが

 今日も私は学校に行く。
 そして、その道中に彼と出会う。

 逆立ちをした格好のまま、彼は私の姿を確かめると笑顔でこう言った。
 「おはよう」
 「おはようございます。逆立ちさん」
 「今日も元気かい?」
 「はい、元気です」
 「ならよかった」
 逆立ちしながら優しい言葉をかけられる。

 そんな彼の姿を見て、私は今日こそ聞きたかったことを聞いてみることにした。
 決心が固まるまで大体一週間ほどかかった。
 今日を逃すともう一生聞くことはできないだろう。
 そんな予感があった。

 だが、そんな私が口を開く前に彼の方が先に話しかけてきた。
 「どうしたんだい? 何で私の前に立つ?」
 「いえ、その、一つ、聞きたいことがあって」
 「なんだい?」
 「どうして、あなたは逆立ちをするんですか?」
 「…………」

 その質問を飲み込んだ瞬間
 彼は深刻な顔をして黙り込む。
 そして逆立ちを止めると、地面に座り込み、水筒を手に取るとこういった。

 「知りたいかい?」
 「はい」
 「じゃあ教えよう」

 一拍おいて
 彼はゆっくりと話し始めた。

 「君は、この世の理を覆すことが可能だと思うかい?」
 「え?」
 「私は絶対に、できると信じている」
 「……それが?」
 「でもやり方がよく分からなかった」
 「…………」
 「だから、まず私が覆ってみることにしたのさ」
 「…………」
 「では、私は戻るぞ」
 「…………わざわざありがとうございました」

 彼はスポーツドリンクを一口飲んで、再び逆立ちを始めた。
 私は少しだけ、そんな彼の姿を見つめてから学校に向かって行くことにした。

 『逆立ちをする男』
 彼の理を覆すための探求の道は、どこまで続くのだろうか?
 私が知っていることはただ一つ
 二年たった今でも彼は逆立ちを続けているのだ。

       

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