Neetel Inside ニートノベル
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ミチとの遭遇
第七章 ヒーロー研の仲間のナイスなアシスト

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第7章 ヒーロー研の仲間のナイスなアシスト
翌朝、俺達は学校へ行く代わりに、買い物に出かけた。凛の自転車に乗って、隣町のショッピングモールで買い物をした。服や食糧を買って、土手沿いの道を並んで歩いた。
幸い、ミチは充分な現金を持っていた。いったい宇宙人がどうやって、地球の現金を手に入れているのか不思議に思った。銀行強盗でもしているのか? と、ミチに聞いたら笑われた。
「地球に長くいる宇宙人もいます。地球の価値観に慣れすぎて、お金儲けに夢中になる宇宙人すらいるんです」
と、笑った。……宇宙人向けの為替レートとか、あるんだろうか?
洋服屋でチェックのフードつきのシャツ、ジーンズに着かえたミチは、相変わらず男とも女ともわからない不思議な風貌だ。
「ねえ、宇宙人は皆ミチみたいに見た目はたいして地球人と変わらないの?」
「いろいろですよ。地球人に擬態できる種族もいますし。人間だけでなくて、物や動物に擬態できる宇宙人だっているんです。僕の上官がそういうタイプの星人で、一度は椅子に擬態していて……。あれは、心臓に良くないです。本当に……。以来暫く、椅子恐怖症になりました」
俺は笑った。なんだか、人間が椅子の中に隠れるってそんな古い小説が確かあったような……。
「! ねえ、もしかして、ミチも地球人に擬態してるの?」
「いえ、ぼくは、見た目はこのままです……。中性体ってことを除けば地球人に見た目が近いので、まだ調査員としては未熟なのに派遣されたのです。正直、ぼくには今回の仕事は荷が重すぎます……」
「そうか。……良かった」
「え、なにが?」
「いや、その……。どうしてミチは最初自分のことミチって言っていたのに、最近、ぼくって言ってるの」
「……ミチの惑星では、一人称代名詞は使いません。名前のみが一人称だから……。最初は一人称代名詞を使うのに慣れなくて……」
「……じゃあ“ぼく”じゃなくてもいいんじゃない?」
「あ。そうですけど、変じゃないですか? ミチは、地球人の基準から言うと、男性に近いんじゃ……?」
「そんなこともない……かな?」
「……」
「ていうか、ミチはミチだよ……。やっぱり、うん」
「どういう意味でしょうか?」
「……そのままで、いい」
ミチが立ち止まって、俺を見上げた。なんか、不思議な気分だった。このまま地球は終わるのかな……。「好きな子がいるなら告白しろ……」。兄貴のそんな言葉が浮かんできて、俺は困惑した。
 困惑して遠くに目をやると、川沿いの天宮市に渡る橋のたもとに、黒いワゴンカーが止まっている。車の検問をやっているらしく、車が橋の上で渋滞していた。もしかして、それは兄貴たちの組織がやっているのかも知れず、だとしたら検問の対象は、ミチだ……。


俺の勘は正しかったらしい。寛治によると、天宮市に通じる道路は、家出人捜索という名目で、検問されているらしかった。そして、そこかしこに、まるで、「メン・イン・ブラック」のような黒いスーツに黒いネクタイ(葬式でもないのに!)黒いサングラスの男たちが、天宮市のそこかしこをウロウロしているらしい。そういえば、兄貴もそんな、恰好をしてたっけか……?
そして、兄貴が早速学校に現れて、行方知れずの弟と、弟と一緒にいなくなったミチのことを、俺の身内という立場でいろいろ聞いたらしい。ヒーロー研のみんなは無論、俺とミチの行先については口外しなかった。
で、なぜか兄貴は去り際、寛治に
「その、勇人は……彼女のことが好きなのか?」
と、こっそり聞いて来たというのだ。兄貴の手元には、神田先生が渡した、ヒーローショーでのミチと神田先生とのツーショット写真が握られていたという。
寛治は、「勿論です」と、思い切り同意しておいた。と言った。
「男の格好であれば、検問にかからなくてすむかもしれん」
寛治に感謝すべきかどうか微妙だが、確かにミチが女だと思い込まれているのなら、そうかも知れない。


一方、ミチは調査地点でこのような事態になったことを報告したことにより、母船への帰還を命じられたようだった。帰還の日は、五日後の日曜日。
 急な話に、俺はちょっとショックだった。
「ミチは、帰らなくてはなりません……」
「……どうしても?」
「……ええ」
「でも、その前に確かめたいんです」
「……なにを?」
「ぼくたちを襲ったモノの正体です」
「……どうやって?」
「……わかりません。……どうすればいいんでしょう」
ミチも、俺も考え込んでしまった。
  

しかし、その頃、学校で俺の友は絶妙なアシストを決めようとしていた。
 放課後、寛治と才蔵は、サッカーボールで遊ぶ振りをしながら、通りがかりの部活顧問番場先生をターゲットに、後方からボールを蹴り
「先生! 危ない!」
と叫んだ。番場先生は、振り向きざま顔面に迫ったボールを、弾き返した。
「先生! 流石ですね! ヘディングっすか?」
才蔵の問いかけに、無言のまま憮然とした顔で番場は去って行ったという。
「才蔵、見たよな。……あれは、ヘディングなんかじゃない。空中ではじき返してた」
「テレキネシスってやつなのか……?」

そして、すぐにこのことを俺に報告してくれた。
「頼む! この件を兄貴にも伝えてもらいたいんだ!」
もう一度、俺は寛治に頼んだ。

兄貴は寛治の連絡を受けて、その日のうちに高校に飛んで来たらしい。
そして、いなくなった俺とミチの部活の顧問として面会を求めた。
兄貴の呼び出しに、番場はヒーロー研の部室で面会した。
「他でもありません。行方不明になった、二人の生徒の部活の顧問としてお話を伺いたかったのです」
「……そうですか。……残念ながら顧問と言っても形だけでして、二人の事も顔がわかる程度で、これといってお話できることがないんですよ」
「……成る程。……つかぬことを伺いますが、うちの弟と一緒にいなくなった生徒には、奇妙な力があったといいます。ご存知ですか?」
「……いえ。……それは、星乃のことですか?」
「そうです。弟いわく、その力の一部をその生徒からもらったと言っていました。」
「……そっちなのか?」
番場が小さく独り言を呟いた……。
「……なにか、おっしゃいましたか?」
「……いえ」
「それで、このところ弟はおかしな事故続きで、もしかしたら、一緒にいなくなったその生徒が原因ではないかと……」
「……ふむ、それは興味深い話ですね」
「……いずれも、普通では考えられないような状況で事故にあってるのです。私は、一緒にいなくなった星乃という生徒が引き起こしてるんじゃないかと睨んでいます」
「そうですか……」
「……もし、その星乃という生徒が一連の事件の犯人だとしたら、弟は危険です」
「……人間とは愚かなものです。自分を滅ぼすものに気付きもしない……」
「……」
「実に、実に愚かです……」
「なにか先生がお気づきのことがありましたら、ご連絡下さい」
「わかりました。……まあ、ご心配でしょう。3度もそんな目に合えば……」
「! ……僕は、弟が3度事故にあったといいましたか?」
「い、いや、そんな気がしたものですから」
「……」
「お兄さんも是非、二人の居場所がわかったら、私の方へもすぐに連絡下さい」。
「……無論です」
「まったく。男二人で手に手を取ってどこへ行っちまったのか……。困ったもんですな」
「……男二人?」
「……なにか?」
「星乃は、男子生徒なんですか?」
「は?」

その後、寛治は兄貴に襟ぐりを掴まれ「カンジー! おまえ、わざと勘違いさせたな!」とシメられたそうだ。
だが、その後でやはり、番場が怪しいことを寛治に告げ、
「検問所の手配写真の変更はない……」とも、いったらしい。もし、俺から連絡があったら、「帰ってきたら、ピザ10枚分の代金を返せよ……」と伝言を残して、帰っていったそうだ……。


寛治からの報告で、俺とミチは一連の事件の犯人は番場先生だと確信したものの、番場先生の正体が何者なのか? いかなる目的で、惑星連合の調査員を亡き者にしようとしていたのか、わからないままだった。
 ここ数日、ネットでは、もうすぐ地球に小惑星が激突して、地球は滅亡するという噂も、ちらほらだが、飛び交い始めていた……。

「勇人、ミチは母船に帰還するために、まず自分の小型艇に戻らなければなりません」
ミチが、矢追家の台所で皿洗いをしながら言った。ここでは居候の身分である。俺らはなるべく矢追家の家事を手伝うことにしたのだ。
「その、小型艇ってどこにあるの?」
皿を布巾で拭きながら聞き返す。日常的な作業に、ひどく不似合いな会話を交わしている気がする……。
「リオンというショッピングモールの屋上の、エントランスの屋根の上に置いてあります。」
「え? そんなところに置いてあれば、誰にだって見えちゃうんじゃ……」
「大丈夫です。見えないように処理してありますから……」
「……そういえば、ミチに初めて会った日!」
「そうです、あの日に初めて日本に来ました……」
「そうだったのか……」
「街の中心部にある建物だったので、着地点に選んだのですけど……」
「リオンは、天宮市のど真ん中にあるからな。あそこにたどり着こうとしたら、どこから行っても検問を抜けないと不可能だな……」
「ええ、困りました……」
「……」
「ねえ、ミチが推理したように、俺達を狙った理由が調査の妨害で、それが意図的に地球に隕石をぶつけることを企んでのことなら、地球は救われる可能性があるんだよね」
「……そうです」
「あいつを捕まえて、それを吐かせたいんだけど!」
「あいつって、番場先生のことですか?」
「……そう」
「……でも、それは、かなり危険です」
「……」
「……。あいつの力は、ミチよりずっと上です」
「でも、このままだと……」
「……わかりました」
「……」
「なんとか考えましょう」
俺達は皿を洗いながら、地球存亡の危機と、インベーダー攻略法について、考え続けた……。


俺は、ミチを小型艇まで送り届け、尚且つ番場を捕まえて白状させるための計画を練り上げた。
4日後にせまった日曜日に、丁度、リオン近くにある大きな市民公園で市民自由参加の夏祭りがあるのだ。そこでコスプレイベントを開き、コスプレに乗じて、俺とミチもリオン近くに近づく。部活顧問の番場に、コスプレイベントに俺とミチが参加することをそれとなく伝える。あいつはまた俺の命を狙うために、必ずやってくるはずである。しかし、人前では、派手に俺に対してアクションを起こすのは難しいはず。そこを利用して、奴を捕獲して、兄貴たちの組織に引き渡す……。そして、組織に尋問してもらう(それくらい活躍してもらわないと税金無駄遣いの存在価値のない組織であろう……)。そして、リオンの屋上までミチを送り、ミチは小型艇で母船に帰還。宇宙に帰る……。そう、ミチは帰ってしまうのだ……。いや、今はセンチメンタルになるのはよそう……。
 
取り敢えず俺は、ヒーローサイトでコスプレイベントの告知をしてもらうことにした。しかし、4日後はさすがに急すぎる。人が集まるのかと少し不安になった。ところが思わぬところに強烈な助っ人がいたのである。
 才蔵がメールで矢追のツイッターのアカウントを送ってきた。矢追はコスプレイヤーとして、その界隈では有名なのらしい。1万人近いフォロワーは、ほとんどがコスプレ関係者らしく、矢追のツイッターの告知に参加を表明するコスプレイヤーはどんどん増えていった。
 矢追のドヤ顔が浮かび少し鬱陶しいが、ここは評価しよう。
そして番場先生に、日曜日、ヒーロー研究部主催のコスプレ大会を開くことを知らせ、一応顧問として参加を促す。だがやはり、「おまえたち勝手にやれ!」の一言で、相手にされなかったらしい。そこで才蔵の案で、番場先生の前で、一芝居することになったらしい。
舞台は、番場先生が通りかかる廊下。
「井原先輩! 夏祭りのコスプレ大会、佐藤先輩も来るんですよねー! 菜緒、久々に会えて嬉しー!」
と、そこで、広瀬の口を押えるサイゾー……。
「バ、バカ。そんなことでかい声で言うなよー。あいつは逃亡中なんだからな……!」
学芸会レベルだと想像できるが、番場は食ついてきた。改めて、コスプレイベントの場所と日時を部室にまでワザワザ確認に来て、
「俺も、一応は顧問だ。今回は会場まで行くとしよう」
と、言ったらしい。

 ここまでは、計画通りだった。

       

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