Neetel Inside ニートノベル
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ミチとの遭遇
第二章 ミチとの再会

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第二章 ミチとの再会 
 バイトに明け暮れたGW明け、少し気だるい気分で登校すると朝から教室内は妙に色めきたっていた。転校生が、うちのクラスに来ると言うのだ。
「聞いた? 転校生だって」
凛がハイテンションで話しかけて来た。凛と俺は同じ2組、1組に才蔵と寛治がいる。
「ああ。随分と又、中途半端な時期にくるんだな」
「帰国子女らしいよ!」
「へぇ~」
と、ガラッと教室前方のドアが開き、担任の神田先生が入ってきた。
「席に着けー!」
皆があわてて自分の席に戻っていった。入室して来た神田先生の後ろに転校生らしき人影、皆が注目する中現れたのは――――。
「えっ?」
俺は思わず呻いた。数日前、俺が介抱した例のあのコが男子制服を着て立っているではないか。クラスの女子が黄色い声をあげる。そうでしょう、そうでしょうとも。女子の反応はもっともだ。でも俺は正直ガッカリだ……。なんだ、男かよ……。
「はーい、先刻承知のようだが転校生だ。中国からの帰国子女だそうだ。色々不慣れなようなので、皆サポートするように」
それだけ言うと先生は、転校生に
「自己紹介」
と促した。明るいブラウンの瞳、きりっとした眉。そう男の制服を着れば確かに男に見えなくはない。だが、惜しい。ってなにが惜しいんだよ俺?
「星乃ミチです」
先生が星乃ミチと黒板に名前を書いた。と、転校生はゆっくりと教室を見回しながら
「ヒーロー研究会は、どこですか?」
まるで教科書の例文を読むように言った。いやそれより、なんで? 謎だったが部員獲得は願ってもない! 俺は、椅子をけって立ち上がった。
「入会希望なら、無条件で受け入れます! 俺は部長の佐藤です!」
転校生は俺の顔を見て一瞬驚きの表情をうかべた。憶えていたのだろう、俺の事を。そういう顔だった。

その日のうちに、放課後、新入部員の歓迎会をすることにした。
部室がわりの佐藤電気店に集合である。お袋と親父は新たなメンバーに一瞬明らかに見惚れた。ニヤニヤしながら親父は電気工事に出かけた。お袋はおやつ代わりにと気を利かせて、卓上の電気たこ焼き器をテーブルの上に置く。たこ焼きの材料を凛に託すと「後はよろしくね! ついでに店番頼むわね」と言い残して店の奥の方に消えて行った。
「君は、電卓を持ち歩いてるのかな?」
だからどうしておまえの関心はソコなんだよ寛治?
「え?」
なんのことだか、と言う顔の星乃君。
俺が思った通り、凛が言ったちょーカッコイイ人とは星乃君のことであった。
「日曜日、リオンで見たときは正直、男の人だか女の人だかよくわかんなくって・・」
「お前、それは失礼だろ!」
俺は己の事を棚に上げて突っ込んだ。
「あ、あ、御免! だってなんていうか星乃君、私なんかより綺麗だし」
「うん、確かに」
速攻同意した才蔵が「いてぇ!」と苦痛に顔をゆがめた。凛が足を踏んだらしい。
跳ねっ返りが珍しく、頬を染めて動揺している。そう、俺に消滅したチャンスがまだ凛にはあるのだ。おまえの初めての春を暖かく見守ってやろうじゃないか。そんな気になった。
「分かった、みなまで言うな! 兎にも角にも、我がヒーロー研究会にようこそ! 星乃君!」
端正な顔立ちの星乃君は、こっくりと頷いた。
「我々は存亡の危機にあったが、星乃君の入会のお陰で危機は回避される可能性が一段と高まった……」
「そう、そのことを話し合いたくてミチは来ました。」
星乃君が真剣なまなざしで俺達を見回した。
「あなたたちのサイトを中国で見ました。そしてメールを送りました。そして、ミチは来ました。」
「ああ、じゃあ日曜日に来てたメールの主は星乃君だったのかぁ」
「海外から見てくれたって、なんか感激だな!」
サイトを立ち上げるのに最も尽力した才蔵が嬉しそうに言った。
「ねえ、中国にずっといたの?」
「いいえ、3日だけです。空気がひどくていられませんでした」
「えっ? だって中国からの帰国子女って?」
「一応、そういうことにしてあります」
「一応?」
「あなた方には本当のことをいいます。ミチは銀河惑星連合から調査隊として派遣されて来た調査員です。あなた達地球の危機を知る地球人が、どういう考えを持っているのか知りたくて来ました。」
「おおっ! 宇宙人設定! 嫌いじゃないよ、そういうの」
「星乃君、意外と面白いな」
思っていたよりノリの良い奴である。嬉しくなって俺達は無邪気に笑った。
だが、星乃君は真剣な顔をしてうつむいた。
「中国に最初派遣されました。空気がひどい状態でした。水もひどいです。でも、人々は自分たちのことで精一杯なようでした。遅かれ早かれ、人類は自滅する運命にあるのではないかと思いました。そんなとき、あなた達のサイトを見つけました。地球の危機を救うのは俺達だというあなた達と話し合いたいと思いました。」
「お、おう」
思うに、このユニークな新たな仲間はとってもショー向きじゃないか?
「無論、俺たちがヒーローさ! 今日から君もその一人だ! だから、君もヒーローショーに出てくれ! そして、部員を増やし、存亡の危機を乗り越え、同好会から部活に昇格する! それが俺たちのやるべきことなんだ!」
「ヒーローショー……?」
「たこ焼き、焼けたよー! 皆ひっくり返して!」
凛が皆に竹串を渡した。竹串でたこ焼きをひっくり返す俺達をやや呆然とした顔でミチが見ていた。帰国子女である。たこ焼きは初めてなのかも知れない。そういえば、スーパーで具合が悪くなったときはタコの刺身を食った直後だったな。
「星乃君、タコ食べられる?」
「ああ、消化薬飲めば大丈夫です。先に飲んでもいいですか?」
「もちろん。……胃が弱いの?」
「ミチの星は二世代前に酷い食糧危機になって、以来食事はいわゆる化学的合成薬です。だから、地球みたいな食文化はとても羨ましい。でも慣れないので消化薬が必要なのです。」
星乃君がおもむろにポケットから出した薬箱を、才蔵が「ちょっと見せて!」と、横取りした。市販の胃薬である。
「あははぁ。なんだキャベジンじゃん!」
お馬鹿な才蔵でなくても、一瞬信じてしまいそうである。それも、きっと彼の中性的な容姿のせいなんだろう。
「なんだ……。星乃君には、MCやってもらうってのはどうだろう?」
真面目な顔で寛治が言ったが、どこか含みのある言い方だ。
「MC?」
星乃君が一瞬瞳を見開いてきょとんとした顔をした。
焼きあがったたこ焼きを皿に盛りながら、凛が説明した。
「MCって司会の事。通常ヒーローショーだと、MCは女の子なんだけどさ。」
ゴホンと咳払いをして、寛治が俺を見た。あ、そう。成る程ね。そりゃ、おまえの言わんとするところはわかるよ。でもさ、今日名乗りあったばかりの人間にいきなり言えるわけないだろ~~。
「女装してくんない? ミチ君!」
才蔵が何のためらいもなく言った。
俺は狼狽え、なぜだかわからないけど赤面した。
「バ、バカ! いきなりそんなこと言う奴あるかよ!」
「そうだよ、才蔵。俺はMCをお願いしたらどうだろうと言っただけだぞ」
寛治よ、おまえ……。
「でも似合うね、きっと! 見てみたい!」
凛が無邪気に言って、たこ焼きの皿を星乃君に渡した。
「女装? 女性の格好の事ですか? ミチは男装でも女装でも、どちらでも構いません。
ミチの星は地球と違って、女性も男性もありません。中性体ですから。」
「中性体? 新しいな……」
寛治が感心する。
「女装はオーケーと。そういうことなのか、星乃君?」
俺は念押しした。
「構いません。そんなことは些末な問題です……」
あっさりしたものである。実はそういう趣味なのか?
才蔵が店のDVDデッキに戦隊もののDVDを入れて、視聴し始めた。
星乃君は呆然とそれを見つめながら呟いた。
「ミチは、勘違いしていたようです」
「勘違い?」
俺は聞き逃さなかったが、
「たこ焼き!食べないと冷めちゃうよ、星乃君!」
凛が熱心に勧めると、星乃君はたこ焼きを恐る恐る頬張り、あの至福の笑みを浮かべた。
「美味しい……!」
俺は思わず身をのりだした。
「美味いだろ? もしかして、たこ焼き初めて?」
「はい。……本当に美味しい」
帰国子女に日本のB級グルメはかくも新鮮な物なのか? ならば、
「学校の近くに美味しいラーメン屋さんがあるんだ。今度、一緒に行かないか?」
「ラーメン、美味しいんですか?」
「うん、美味いよ!」
「行きます。」
と答えて、嬉しそうに笑った顔はなんというか……可愛い。
って、大丈夫か、俺?

 星乃君が加わり、俄然やる気が出た俺達は翌日から文化祭の準備を始めた。GWのバイトの稼ぎと、ヒーローサイトのアフィリエイトの稼ぎを資金にし、アクタースーツをネットで購入。俺がレッドで、寛治がブルー、才蔵がグリーンで、凛がイエローだ。
星乃君の衣装は、黄色と緑のキャスケット帽にピンクのスカーフと黄色のTシャツに、胸当てのついたスカート、白のくるぶしがくしゃっとしたソックスとローファー。ヒーローショーのMCお姉さんの定番スタイル、しめて二万五百八十円也。何気にMCの衣装が一番高かったが、妙な期待からか誰も文句は言わなかった。
「いーじゃん、いーじゃん、すげーじゃん!」
才蔵が嬉しそうにグリーンのアクタースーツを抱きしめる。寛治は何も言わずに、自分の衣装をじっと見つめている。他人が見たらわからないかも知れないが、俺には寛治が感動しているのが分かった。

 空手部の練習がある凛以外は、学校の中庭でアクションの練習に励むことになった。
足を高く上げてキックの練習をしたりしていると、寛治がぽつりと呟いた。
「敵がさ、いないよね」
スマホでネットサーフィン中の才蔵が答える。
「敵?」
「ヒーローショーだと、必ず敵がいるだろ。ショッカーとか、外道衆とか」
「確かになぁ」
振り上げていた足を下ろしながら、俺が答える。
と、50メートルくらい先の渡り廊下で、男子生徒が数名なにやら声を荒げているのが目に入った。寛治と才蔵も気付いて、アクションをやめた。
どうやら小柄な男子生徒に、不良グループらしき3人がからんでいるようだった。
「あれ、3年のたち悪い奴らだよ。からまれてるの1年だろ、多分。」
寛治が小声で言った。
「あいつら、リオンの屋上でボコされてた奴らだ! なんだ、またやってんのかよ」
「ボコされたって?」
「ほら、スゲーヤツ見たって、スマホで……」
「あー、意味不明なんだよ。才蔵の言う事は……」
「遠目に見たけど、1対3であいつら、ほそっこい奴にやられてた」
才蔵は愉快そうに笑った。
「なんだ、以外と弱いんじゃねーのあいつら」
可哀想な1年生の男子は「やめてください」と、半泣きになっている。
空想と現実の狭間を超えるには、ちょっとした錯覚が必要な事もある。
多分、才蔵の話が俺たちを錯覚させたのだ。俺達に現実でヒーローになるチャンスがあると。

「だから出せっていってんだろ、オカマ野郎!」
「嫌です!」
「借りるだけだって言ってんじゃん、ほれ!」
ポケットから封筒を取り上げた。不良がせせら笑っている。
「ピアノの月謝返して!」
不良達は笑いながら踵を返して去っていこうとしていたが、そうはさせるか!
「おい、待てよ! おまえら、なにやってんだよ!」
俺と寛治と才蔵は仁王立ちになって、不良達を呼び止めた。
「負ける気がしねー!」
俺は呟いた。頭の中では敵をなぎ倒すアクションがシュミレーションのように流れていた!
「おまえら、喧嘩売ってんのか? アン?」
ソリの入った角刈り頭が、顎を突き出して凄んできた。次の瞬間、右ストレートパンチを繰り出してきたのを、シュミレーション通りかわし、カウンターパンチを入れようとした。瞬間、俺の腹に蹴りが入った……。それからどんなふうに殴られたのか、蹴られたのか、記憶にないけど多分3分もしないうちに俺らは地面に転がされて呻いていた。カッコ悪りー。
「雑魚が!」
と、吐き捨てるように言って去って行こうとする外道衆。悔しすぎるだろ、俺。
「待てよ! 卑怯なんだよお前ら! 三年のくせに、人苛めてんじゃねーぞ!」
「なんだよ、まだやるのかよ? え~?」
小ばかにした顔で笑っている。
「お前たちのツラは、はっきりこの目に焼き付けてあんだよ。あんたたちだって、進路ってもんがあるだろ。でもな……」
寛治がよろっと立ち上がって、胸のポケットから学生手帳を取り出した。
「窃盗は退学! 暴力行為は禁止!」
「なにーーーーーーっ!」
三人の形相が、怪人に変身する寸前の悪役みたいになった。
「おまえら、チクったりしてみろ。骨折ぐらいじゃ済まない! えっ――」
と、急に3人の目が空中を凝視したまま顔色が変わる。後ずさりをはじめ、「お、憶えてろよ。」と叫びながら、全速力で逃げ出した。
「憶えててやるよ。バーーカ!」
才蔵が鼻血を流しながら、叫んだ。
「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
声の主のほうを振り向くと星乃君だった。いつからそこに?
「なあ、最初からこれ使えば良かったな……」
寛治が生徒手帳を手に、笑ってため息をついた。まったく、校則なんてものが役に立つこともあるんだな。
苛められていた一年生の男子が駆け寄って来た。
「すみません、僕の為に……。怪我大丈夫ですか?」
「いや、ちょっと敵をなめすぎてた。お前のせいだぞ! 才蔵! ちょろいみたいなこと言うから――」
「だって、本当にたった一人にやられてたんだぜあいつら」
「あ、あの時は、どうもありがとうございました!」
1年生の苛められっ子が、なぜか星乃君に深々おじぎをした。
星乃君が不思議そうな顔をすると、1年生は、
「リオンの屋上で、助けてもらいました! こないだの日曜日!」
「えっ!」
俺と寛治と才蔵は、呆気にとられた。
あの3人をたった一人でぶちのめしたのが、星乃君だって!?
「人は見かけによらないって言うけど、いったいどうやってさ?」
「丁度、屋根の上にいたんで、こういう感じで」
と、とび蹴りのポーズをして見せる。
「飛び降りたら、当たったんです」
「あれがミッチーだったんなら、俺、マジ宇宙人って信じるぜ!」
と、才蔵が狐につままれたような顔をしている。
「やだな、それ冗談ですよ」
以外にあっさり否定されると、なんか肩すかしをくった気分になる。
「なぜ屋根の上に?」
寛治の質問は凛のけたたましい声にかき消された。
「ちょっと! あんたたち大丈夫?」
空手の稽古着のまま数名の男子空手部員を引き連れて、凛が走ってきた。
「あんた達が、3年のワルにボコボコにされてるって聞いたから……」
凛が肩で息をしている。
「助っ人に来てくれたの?」
「止めに来たのよ、馬鹿!」
「これでも勝ったんだぜ。口喧嘩でだけど」
「口喧嘩?」
「あいつら、逃げ出したし」
「からまれてた1年助けようとしたらしいな。意外にやるじゃねーか」
鬼島という空手部の部長が、鬼瓦のような顔に笑みを浮かべた。
「すいません、鬼島先輩。大丈夫みたい」
「わざわざ、どうも」
「いや、俺がぞっこんの相川の頼みだからっ」
「やだぁっ! 部長! 冗談は顔だけにしてくださーい!」
凛は照れたように、部長の背中をバンバン叩いた。
俺達は、ちょっと呆然とした。蓼食う虫も好き好きである……。凛に女を感じる奴もいるのである。

その後、俺達は3年生のワルたちのことを生活指導の元に、1年生の苛められっこ藤沢祥太郎と一緒にチクリに行った。今まで金品を巻き上げられ暴力振るわれていたのに、報復が怖くて黙っていたという。これでアイツらは退学は免れないだろう。
 それから凛にぞっこんの空手部部長に、文化祭のヒーローショーで空手部から悪役に数名借してもらうことを約束してもらった。「しゃーねーな」とか言いながら、頭を掻いて二つ返事で引き受けてくれた。相川凛、様々である。

       

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