第十一話 カイザー (どんべえは関西派)

 「ねぇねぇ堅悟君、この仮面ライダーもどきと知り合いなの? こんな時間帯にこんな場所で何しているの、というかその方の傷は何!? すぐお医者さんに見せないと化膿して大変なことになるよ。あと聞きたかったんだけどどうして突然コンビニのバイト辞めたの? 堅悟君の仕事も店長が私に押し付けてきてて大変だったんだよ。まぁ、結局私もそこ辞めちゃったんだけど、今? 今は小さい三流雑誌のオカルト欄の小話を書くバイトしているよ、意外と時給がよくていいんだ。あ、そのことについてだけどこの間のアリーナで起きた事件について何か知らない? それ以外でもここらへんでいろいろな事件があってそのことについて取材してるんだけど、私的には口裂け女とかそこら辺の良くある都市伝説じゃないと思うんだよね、ところで話聞いてる? 聞いてるね、じゃ、話を戻すけど何か知らない?」
 「「…………」」


 まくし立てる佐奈
 正直うるさい
 だが、バイトの時から何ら変わらない喋り方に何となく懐かしい気持ちになる。最近いろいろなことがありすぎて、コンビニでバイトをしていた時のことなど遠い昔の記憶となっていた。
 佐奈と仕事をしていた頃に修得した聞き流し術で、彼女の言葉を右から左へと華麗に流していく。
 しかし、初対面のカイザーはそういかない。
 仮面の下でどんな顔をしているのか分からないが、困惑しているのだけははっきりと分かった。
 一方の佐奈は二人の様子など全く気にすることなくしゃべり続ける。
 カイザーはこっそり俺の隣に来ると、耳元にこっそりと話しかけてきた。

 「一ついいかい?」
 「なんだよ」
 「この女を黙らせるにはどうしたらいい?」
 「…………」

 やはり殺すつもりは無いらしい。
 俺はそのことに少し安心しながら、同じく小さい声で返事を返す。

 「酒だ」
 「何?」
 「あいつは酒にめっぽう弱い。でも、酒好きだから簡単につぶれるのさ」
 「なるほどな……」

 カイザーは小さく呟くと顎のあたりに手を当てて何か考え込む。その後、顔をキョロキョロとさせると数十m先にある光を目にする。どうやら、二十四時間営業のコンビニエイトらしかった。
 それを確認してからもう一度話かけてくる。

 「君、名前は何だ?」
 「石動堅悟」
 「君の家はこの近くにあるか?」
 「え?」

 そう尋ねられて少し困る。
 家がどこにあるのか、正直見当などついていなかった。どう答えるか困っていると、聞きなれた声が脳裏に響いて来た。

 「堅悟様。ここからそう遠くないところに引っ越したばかりのアパートがありますよ」
 「翼ちゃん、大丈夫だったか?」
 「はい、あの程度でやられる私ではありません。しっかり逃げてきました」
 「よかった。安心した」

 そっと胸を撫で下ろす。彼女に何かあったら今までのことが何の意味もなくなってしまう。それだけは勘弁してほしかった。とりあえず翼ちゃんが戻ってきたことを喜びつつも、カイザーに家が近くにあることを伝える。
 すると、嬉しそうな声を上げるとカイザーはこう言った。

 「ならちょうどいい。君に話があるんだ。私のおごりで飲まないか?」
 「は?」

 少し警戒する。
 何を考えているか分からない。リザの話を思い返してみると、このカイザーという奴は相当強力な悪魔らしい。だが、今までの態度を見ている限り、そんなようには思えない。おまけに悪い奴のようにも見えない。敵意も感じられない。
 嫌な予感はしたものの、何となくこの謎の悪魔について気になっていた。
 翼ちゃんは何とも言えない表情で、俺のことを心配そうに眺めていた。だがどういう訳か、誘いを断れとは言ってこない。彼女もカイザーが敵ではないと認識しているのだ。何となくそれを察することができた。
 以上のことから判断すると、俺はゆっくりとうなずいた。
 カイザーはそれを見て満足そうにウンウンと首を傾げると、いまだまくし立てている佐奈に向かってこう言った。

 「女」
 「え? 何? 私は佐奈だけど」
 「どうだ? これから彼の家で飲むのだが、一緒に行かないか?」
 「――ッ!! 行く行く!!」
 「よし、なら酒を買って来る。ここで待っててくれ」

 そう言ってカイザーはまっすぐコンビニの方へと向かって行った。
 俺はその後姿を見送りながら、ふと思った。
 
 あいつ変身したままじゃね?
 大丈夫なのだろうか
 とりあえず心配しておくことにした。



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 「それで聞いてよ仮面ライダー、それで編集長ったら私の原稿全部電車に忘れてきちゃったのよ!!」
 「ほぉ、それは酷いなぁ」
 「でしょう!! もうやってられなーい!!!」
 「まぁまぁ、もう一杯どうだ?」
 「もー!! おじさんたっらー!!」
 「ハハハハハハ。私のおごりだ、ドンドン飲め」

 そう言って佐奈の手にしているコップにウイスキーを注ぐカイザー。佐奈はそれをグイッと飲み干すと、「ぷはー!!」とまるでビールを飲みほしたかのようなリアクションをとる。
 その直後
 「やっぱりUMAは最高!!」
 と叫んで倒れると、その場で猫のように縮まって眠り始めた。
 どうやら酔いつぶれてしまったらしい。
 まだ三十分しかたっていないのだが、結構なペースで飲んでいた。おまけにカイザーは酒を勧めるのと話を聞くのが上手いので佐奈はいつも以上に飲み過ぎたらしい。俺は缶ビールをちびちび飲みながら呆れた目で彼女のことを見る。
 カイザーは、チーズ鱈を一つ口に運んでから眉間を揉んでこう答えた。

 「堅悟君」
 「なんだ」
 「彼女はいつもこうなのか?」
 「ま、そうだな」
 「中々陽気な女の子だ」
 「うるさいけどな」
 「ハハハハハハハハハハハハ」

 カイザーは朗らかに笑った。
 彼は既に装甲を外し、素顔を晒していた。
 スーツをきっちりと着こなして、人懐っこそうな顔をしている。顔には常に笑顔を浮かべていて、優しげな目でこちらのことを見ている。自分よりは確実に年上のようだが、そこまで歳をいっているようには見えなかった。
 それに、そこそこイケメンだった。
 おそらく合コンとかに行ったらそこそこモテるタイプだろう。

 少しの間、沈黙が流れる。
 その間に俺は冷静になっていく、カイザーは自分に話があると言っていた。その話が始まるとしたら、佐奈が寝た今からだろう。少し緊張してくる。一方で翼ちゃんは押し入れの中から毛布を引っ張り出してくると、それを佐奈の上にかけていた。
 カイザーはチーズ鱈の新しい袋を開けると話を始めた。

 「さて、話を始めよう」
 「早くしろよ」
 「実は私は前から君に目をつけていたのだ。具体的に言うと、アリーナの時からだな」
 「だから何だよ、早く本題に入れよ」
 「まぁ待て、話には順番という物がある」
 「は?」

 カイザーはそう前置きすると、酒を一口飲むと考え込む。
 数十秒後
 彼はゆっくりと口を開いた。

 「そうだな……まずは、私たち悪魔の派閥について話そうか」
 「派閥?」
 「そう。悪魔は主に三つの派閥に分かれている」
 「三つ」

 意外と少なかった。
 指を三本たてるとカイザーは言葉を紡ぎだす。

 「まずはこの世界に三体いる装甲を纏う悪魔の中で一番の頭脳派。装甲魔鬼マーリン率いる穏健派」
 「穏健派?」
 「そう。簡単に言うと、あまり大がかりの殺戮を行わず、なるべく波風を立てることなく殺しを行う集団だ」
 「……なるほど」

 つまりは表ざたになることを避けるタイプだろう。
 確かに警察とかに目をつけられると面倒だろう、考えはよく分かった。

 「次に、装甲竜鬼バハムート率いる過激派だ。これが一番勢力が強い」
 「まぁ、なんとなく察しが付くな」

 名前から察するに穏健派と真逆な派閥なのだろう。
 よく分からない俺にもわかりやすい名前だった。
 カイザーは二本目の指を折りたたんでから言葉を続けた。

 「そして最後に君もスカウトされた反逆軍。これは悪魔たちから疎まれている組織でな。一番勢力が弱い」
 「え、そうなのか?」
 「そうだ。過激派が半数に穏健派三割、反乱軍が一割といったところかな?」
 「意外だな」

 思ったより反逆軍の勢力が小さい。
 その時、俺は気が付いた。
 一割足りない。
 気になったので直接訪ねることにした。

 「一割足りないぞ?」
 「あぁ、忘れていた。残りは私だ」
 「あ、そう」

 一気に興味が削がれた。
 カイザーはそんなこと一切気に介さず言葉を続ける。

 「反逆軍は非正規英雄も味方につけているだろう? それが古参の悪魔たちに不評でな。嫌われているのさ」
 「なるほどね」

 何となく気持ちは分かった。

 「さてと、ここからが本題だ」
 「え?」
 「この勢力図が、最近ガラリと書き変えられたのさ」
 「は?」

 いきなり話が飛んだ。
 俺は目を白黒させたまま、カイザーのことをジッと見る。
 疑問の詰まったその視線に気づいた彼は、ゆっくりと説明を始めた。

 「私はマーリン達と交渉し、彼女の配下の悪魔――クトゥルフとクトゥグアというのだが――彼女たちを含む、穏健派の全てを味方に引き入れることに成功したのさ」
 「…………」
 「これで悪魔の四割は私の味方になったということだ」
 「…………」

 勝ち誇ってそう言った後、カイザーは新しく缶ビールを開けた。
 俺はカイザーの話が一度途切れたのを確認すると、ゆっくりと口を開き、話しかけた。

 「一ついいか?」
 「なんだね?」
 「カイザー、あんたの目的。それは一体何なんだ?」
 「うん? 私の目的か?」

 そう言って首を傾げる彼
 直後、小さい声で「クックックッ」と笑い出すと、手にしていたビールをそっとちゃぶ台の上にそっと載せる。場の空気が一転した。俺は背筋をゾッとした物が走り、冷汗がドッと吹き出してきたことに気が付いた。
 カイザーは言いようも知れぬ迫力を醸し出した、こう答えた。



 「私の目的はたった一つ。それは……この天使と悪魔の馬鹿げた戦いを終わらせることさ」



 「「え?」」


 あまりにも予想外の答えに、俺と翼ちゃんの二人は同時に間抜けな声を上げていた。