「さぁー、始まりました5日間による特訓を終えた英雄4人によるデスマッチ!実況は力天使ウリエルこと瓜江累でお送りします!
えー、本日は解説者として今鐘キョータ、秋風天音に英雄としての能力を与えたそれぞれの天使をお呼びしました!それでは駄天使のアルム、ホリー。自己紹介を」

『だ、駄天使呼びは酷いですね…ウリエル様の立場からすれば私たちなんてほとんど新人みたいなものですけど』

「何か言いました?」

『い、いえ!先程大先輩からご紹介預かりました今鐘キョータの使いを務めるアルムです。普段は伊藤歩夢という仮名で男子大学生として英雄と悪魔の動向を見届けています。次にホリー、自己紹介を』

《はい!どーもー★歌って踊れるみんなのえんじぇる系アイドル、ほりたんでーす☆キラッ》

「……は?」

《す、すみません!秋風天音の担当天使、ホリーですっ!堀井聖恵という仮名で平日はOL、週末はアキバで声優アイドル目指して自作のカセットを手売りで販売しちゃってまーす☆みんなも土日はアキバに集結★キラッ》

「えー、一瞬実況席が凍りつきましたが…気を取り直して。ふたりは他の天使とは違い、ボクのように人間界に溶け込んで天界とのパイプ役をしてもらっているよ!キミ達ふたりが授けたアーティファクトについて教えて貰えるかな?」

『はい、私がキョータ君に授けた神聖武具は『ジャマダハル』という名称のカタールのような形状をした手甲型の攻防一体のアーティファクト。彼に何度教えても『ジャマダハル』という呼称が覚えられなかったのでキョータ君が勝手に付けた『コモン・アンコモン』という名前が定着しています』

《あ、やっぱそうだったんだ!実は天音チンの神聖武具も本来は『ヘルメス』って名前なんだけど「能力発現のたびにブランドの名前を叫ぶのはイヤ!」っていう本人の主張で彼女が昔経験したダンス用語から拝借した『ティップ・タップ』という名前で呼ばれているんだよ!》

「えー、本来であれば地上界の人間が神聖武具取り扱い許可を得るというのは大変栄誉な事なのですが…その言い分だとあなた達、あのふたりに相当舐められてますね…」

《そんな事ないですよ~》

『お、私が捧げたジャマダハルを発現させたキョータ君が圧してますよ!』

「実況席ふもとの河川敷では今、キョータと鹿子のふたりが一対一で組み合っています。おーっと、これは…中央でぶつかり合うふたりとは対照的に天音と間遠は後方で戦況を見守ります」

『戦闘開始からまだ一分。後方からふたりの支援を行うという事なのか、それとも修行で磨いた奥の手はまだ見せたくないという事なのか…わかりませんね』

「おー、ここで戦況が動きました!『雷神の鉄槌』トールによる打撃によってバランスを崩したキョータを背負い投げた鹿子が顔面をストンプ、ストンプ、ストンプゥー!!ただでさえ平均点以下のキョータの顔面が更に残念な姿に変わっていくぅー!!」


 ・・・・

「誰のッせいでッ!私があの動くわいせつ物にッ、負け犬なんて言われなきゃならないのよッ!」

 穏かな河川敷に鹿子が足を踏み下ろす度、骨が軋む嫌な音が辺りに響く。本来味方であるキョータを自忘したように何度も踏みつける鹿子を見て和宮が仲裁の言葉を投げ掛ける。

「その辺にしておけ。こんな不衛生な所でキャンプを張ってストレスが溜まっているのも無理は無いが、俺達があの四大幹部に敗れたのは事実だ」

「何言ってんのよ。私は負けたとは思ってないし?それに今穿いてるのは安全靴だから大丈夫!」

「いや、それ笑えないから。かのん先輩」

 ドン引きしている天音を振り返ると鹿子の足元からキョータが不気味に笑う声が反響した。

「…やってくれたなぁ!鹿子の姉御!そっちがその気ならこっちも手加減しねぇぞ!?オレは女だろうが老人だろうが関係なく暴力を振るっちまう英雄なんだぜ?今度はこっちの番だ!」

 鹿子の片足が持ち上がり、その場に尻もちをつくと起き上がったキョータの腕輪が光り輝いてその身体が岩肌に硬質化し始めた。それを見て立ち上がった鹿子がゆっくりと後方に距離を取る。

「出たっ、相変わらず憎たらしいヴィラン顔。いっそ悪魔だったら一思いに全力トールで殴り飛ばせるのに」

「これだけじゃねぇ!『シーシュポス・アペンドファイア』!」

 岩の仮面に覆われたキョータの顔から詠唱コールが轟くとその身体からマグマが吹き上がるような勢いで巨体を紅蓮の炎が包み込んだ。

「…これが神戸サウナで身に着けた新能力か。さっきより格段に魔力と耐久性が上がっている」

 周りの暑さとは正反対に背筋に沸きあがった寒気を堪えるように和宮は硬く両腕を組んで飛び散る火の粉に目を細めた。

「高温のサウナで耐える事5日間。オレはある特訓により『熱風』と俺の魔力を結びつける事に成功した!何しろ身に着けたばかりの新能力だ。オレにも手加減できねぇぞ!?」

「馬鹿なヤツ。負けた相手と同じ能力にしてどうすんのよ?」

「オイ、今、馬鹿っつたか!?許せねぇ!これでも喰らえ!」

 『岩石の尖兵』シーシュポスに更に火炎を身に纏ったキョータは息を吸い込むように腹部を大きく膨らませると身体を屈めて体内で生成した炎のブレスを鹿子を囲うように辺りに噴出した。

「これで逃げ場はねぇぜ!」大きく飛び上がって拳を振り上げる異形のキョータを眺めて鹿子はこめかみに浮かぶ汗を拭う。「喰らいやがれ!必殺ぅー!ファイアパンチ!」

 キョータが鹿子目がけて炎を巻きつけた拳を叩きつけると周辺を取り囲んでいた炎がバースデーケーキのロウソクのように風圧で消え、川の水面が大きく揺れる地響きが起こった。依然腕組をしたままの和宮が目にかかる前髪を指で払ってキョータの大柄な背中を見つめて呟いた。

「今鐘、おまえそのネーミング…」

「タハッ、一度やってみたかった!」

 土煙が薄くなるとキョータは鹿子の姿を首の無い肩を揺らしながら探し始めた。「さっきの一撃、手ごたえがまるで無かった…どこに消えやがった!?」

「…後ろだ!」「!?」和宮が声を掛けるより先にキョータの脳天に鹿子のフルチャージのトールが直撃した。

「なっ!?クハッ!」「少し眠ってて」鹿子が耳打ちをすると岩面内部のキョータの目玉がぐりん、と一周し、能力が解除されてそのまま意識を失ってその場に崩れ落ちた。

 (今のトールへの一撃に繋がる一連の動き、一切見えなかった。こいつ、ここでどんな特訓を行ったんだ?)

「さ、次はあんたの番。余裕かましてないで早く剣を鞘から引きなさいよ」

 重量のあるハンマーを軽々と構える鹿子を見て和宮は身体を屈めて能力を実現し始めた。

「俺が神聖武具を出す度に『代償』が身体が蝕んでゆくのを知っているだろう?意地の悪い奴だ」

「…それじゃ特訓の成果が見れないでしょ。アンタも“私たち”の能力ですぐに楽にしてあげる」

 にじり寄る鹿子の後ろで天音が自慢げな表情を見せてふふんと笑う。二対一か、面白い。和宮は不敵に微笑むと『絶対なる長剣』アンスウェラーの鞘に手を掛けた。