「行くぞ、アンスウェラー!」

 和宮が鹿子と天音に宣告するとその腰から天使の加護を受けた光り輝く長剣が姿を現した。アンスウェラーは使用中、定めた一つの対象の動きを完全に読み切って最善の一手を相手に与える奇跡の剣。

 定める対象の数は増やすことができるが、和宮はまず目の前の鹿子をその手によって退ける選択した。剣を構える和宮を見て鹿子の後ろで椅子に座る天音が生唾を飲み込む。

「アレが憧れの和宮さんの聖剣。ツヤがある美しさで、長さがあって耐久性もある。すごく、欲しい…」

「こらこら、勘違いされるような言動は慎みなさいな。アンスウェラーと接近戦じゃ勝ち目は無い…それなら、これでどうッ!?」

 鹿子が不自然に羽織っていたロングコートの内側から硬質な物体を和宮目がけて投擲した。防御も兼ねているその剣でそれを切り裂くと耳を劈くような小爆発が巻き起こった。

「剣で斬ったのは正解だし、不正解。私が放ったソレは標的に当たるか打ち砕かれるまで対象を追い続ける。直撃したら結構“効く”よ?」

 和宮にそう告げると鹿子は今度は左右両側のコート内のあるそれの柄を掴むと2丁の金槌が再び和宮に投げつけられた。

「ミョルニル。私が新たに生み出した中距離戦闘用の魔法の金槌よッ」


 ・・・・

『ウリエル様、コレは?』

「うーん。どうもアレは普通のアーティファクトと違うような。ボクは天使を辞めてるから悪魔と闘う時は魔法詠唱をメインで使うんだけど、鹿子さんの武器はそれに似てるというか。
ここに来る前に4人の英雄それぞれの魔力をスカウッタで調べてみたんだけど鹿子さんは一般的な英雄より豊富な魔力を持っている事が判明したんだ」

《ちゅーことはアレは神聖武具というより鹿チン自身の魔力によって生み出された武器ってコトですかっ!?》

「本人に聞いてみないと理解わからないけどキミの言う通り、アレは鹿子さんの魔力によって生成された武器だとボクは考える」

『ん?どうされました、ウリエル様』

「…なるほど。だから対決直前まで休息して魔力を最大まで回復していたのか…やるね!」


 ・・・・

 視点は再び河川敷に戻り鹿子と和宮の闘いへ。鹿子の手から投擲されたミョルニルはブーメランやヨーヨーのようなやや不規則な軌道を描き、和宮に向かって飛んでいく。

 アンスウェラーの能力を持ってすればさばき切れない速度では無いが破壊した際に起こるミョルニル自体の小爆発が和宮の『代償』と伴って彼を苦しめていた。

 (このままではラチがあかない…!強引に距離を詰める!)

 和宮は一度能力を解除するとその場から駆け出して鹿子のいるフェンス際に走り寄った。後方に周ったミョルニルが和宮の背中に直撃し、無慈悲にダメージを与え続ける。

「やっぱ、そう来たか。天音!」

「分かってますよ!かのん先輩!」

「この距離ならもう逃げられんぞ!そこだ!アンスウェラー!」

 和宮が再び能力を開放すると目に追えない速度の超速斬撃が鹿子に向けて放たれた。今までにこの距離から攻撃を外したことは無い。勝利を確信した和宮の一撃だったがまたしてもすんでの所で鹿子の姿が幻影と共に消えた。

「『また消えやがった!?』って顔してるから説明させてもらうけど」

 背後に現れた鹿子の気配に剣の切っ先を切り替えて斬撃を加えるがこれもまた空振り。「女子の話は最後までちゃんと聞きなさいよ。これは私と天音、ふたりのコンビネーションによる能力、その名も」

「戦闘舞曲、-コッペリア- です!」

 明るい大声で能力名を明かした天音を苦々しい表情で和宮は眺める。そしてそのトリックに気付いて俯き、静かに微笑んだ。天音は椅子に座ったまま何もしていなかった訳ではない。鹿子を前衛で戦わせ、自身が持つ風の力で操り人形のように対象を操るコンビネーション技。相手の周りを囲うように姿を現しては消える鹿子を和宮は“欠けた五感”を駆使して探し始めた。

「どんなに精神統一させても無駄、無意味!それにその様子だと今回のアンスウェラーの『代償』はラッキーなコトに視覚!これで終わりよッ!覚悟!」

 人間の死角である前方斜め上に姿を現した鹿子がコートから大量のミョルニルを和宮目がけてばら撒いた。その姿を感じてまるで昔やったゲームの難敵だな、と和宮は笑う。


 ・・・・


『うわー、これは決まったかー?さすがにあの数のハンマーを剣でさばくのは不可能ッ!よって勝者、鹿子天音ペア…』「いや、待って」

 瓜江が絶大なる権限と研ぎ澄まされた眼光を持って後輩天使を制すると土煙が止むのを待って声を上げた。

「スゴいね!彼もまた限界を超えた!」

《ど、どういうコトですかっ!?ウリエル様?》

「間遠君は八門を開いたのさ」

 ミョルニルをひとつも爆破させることなく切り裂いた和宮の姿を上の視点から観ながら3人の天使は話続ける。

『八門というと…古来中国より伝わる頭部から始まる人体の魔力の密集する箇所の事ですよね?それを間遠和宮は瞬時に開いて通常より大きな魔力を発してあの攻撃をさばいたと…?』

「彼は神戸である特訓を積んでね…本来はそういう目的じゃなかったんだが、怪我の功名。彼は自分の意思で八門の一部を開くことが出来るようになって、大気中のチャクラを体内に取り込んで独自の呼吸法により自らの魔力に変換したのさ。
まぁ、一応レディもいる事だし八門のドコを開いたかはご想像にお任せするよ…」


 ・・・・

「ちょ、和宮アンタまさか…神戸に行って積んだ特訓でこれのコトだったの…?」

 勝ち誇ったような、悟りきった表情で剣先を拭う和宮を見て鹿子が蔑んだように顔を歪めた。「やっぱ、和宮さんはナシかも…」一途な憧れを抱いていた天音さえ和宮に対して幻滅したような態度をみせた。

「フン。結果的に戦闘能力が向上すれば問題は無い。それにこの闘い、お前たちはもう“詰み”だ」

「鹿子先輩、後ろ!」「!?」「オラァ!」

 突如背後に現れた巨大な影に気付かず、わき腹に強烈な一撃を受けた鹿子の身体が砂利の上を転がる。「不意打ちはアンタの専売特許だったかな?鹿子の姉御」「クソッ!油断した!」

「これで二対二だ」一時的に意識を失っていたキョータが再起し和宮の横に立って揺らめくシーシュポスの顔を一笑させると和宮はアンスウェラーの切っ先を鹿子の奥に居る天音に向けた。

「棄権しろ。さっきの-操り人形-では今の俺の斬撃はかわせない」

「…行くよっ、かのん先輩!」「分かってるよ!」天音の声によって立ち上がった鹿子がトールの能力を実現化させるとその身を大気の渦が取り囲んだ。四肢関節と頭部に取り付いた透明な風の糸が鹿子を再び宙へと浮かび上がらせる。

「限界を超えて、舞え!戦闘舞曲、-コッペリア-」

「通用しないといった筈だ!切り裂け!アンスウェラー!」「ちょ、ホントにやるんですか!?間遠のダンナ!相手は手負いの女の子っすよ!?」

 キョータの忠告を無視して和宮は八門を開き最大出力の攻撃を放った。その斬撃はまるで四方八方から飛び交うカマイタチのようだった。攻撃を受けて鹿子の足や肩から鮮血が噴き出してゆく。

「なっ!?ダメージ覚悟の特攻かよ?」「耐えて先輩!戦闘舞曲-くるみ割り人形-」

 血塗れの鹿子の身体が空中で反転すると威力を込められたトールが硬質化したキョータの脳天目がけて振り下ろされた。

「あっ、オレ死んだわ」

――鳴り響く轟音とブラックアウトする景色。キョータが天音のもうひとつの能力、『完治の奇跡』ベレヌスによって再び意識を取り戻す頃にはデスマッチの勝敗は既に決していた。


「…仲間の回復能力をあてにして特攻を仕掛けるとは関心しないな」

「ソッチこそ俗にまみれた修行というかアソビで能力を上げるとか、英雄としてどうなの?」

 口争いを始める和宮と鹿子を見て「やっぱりまだオレは修行が足んねーわ」と達観したようにキョータが立ち上がった。

「はいはいー。先生、皆さん特訓の成果をこれでもか、とばかりに見せてもらいましたよー」充実感のある笑みで瓜江が手を叩きながら4人の元へ近づいてきた。闘いを俯瞰で眺めていた時間が長かった天音が不思議がって瓜江に尋ねた。

「アレ?アルムとホリーはどうしたんですか?さっき見上げた時には居ましたけど」

「彼らは成長したキミ達の姿を見届けて去って行ったよ!鹿子さん、天音さんおめでとう!勝利ペアには景品として宮城鹽竈神社への一泊二日観光チケットが…」

「オイコラ三下共!いつまで俺を放置したまま待たせんねん!」

 駐車場からケルビムの怒声がエンジン音と共に響く。

「もー。疲れてるんだから~。どっかのブラック企業の支店長みたいに怒らないでよー」

「さ、先輩の事務所に帰りましょうよ。あー、早くおフロにはいりたーい」

「ん?なんかお前ら臭ぇぞ!?この5日間どう過ごしてたんだよ?教えろ!」

 口々に愚痴やらなにやら言い合う3人を引率する瓜江の後ろで和宮は密かに決心を固めたように胸の内で言葉を吐いた。

「もしこの特訓を経てもあの悪魔達に敵わないようであれば…俺がお前達を守ってやる。俺のこの『ブリューナク』で…!」

 それぞれの想いを込めてケルビムに乗り込む面々。鹿子の事務所に向かう路の途中で和宮はひとり強く自らの掌を握り締めた。




第十八話 完