「…………」


 朱鷺は研究所外にある一本の木の前で蹲踞の姿勢をとっていた。
 来ている服はいつもの作務衣ではなく、白の胴着と紺の袴をはいていた。背筋はピンと伸びて、目はピッタリと閉じられていいた。冷たい風が吹き抜けて、頬をそっと撫でていく。今の朱鷺は完全に自然と一体化していた。
 手はまるでお椀を形作っているように組まれていた。
 彼女はかれこれ五分間はこの格好で瞑想を続けていた。
 しかし、朱鷺は突然カッと目を見開くと突然立ち上がり、足を思いっきり上げると木に向かって蹴りを繰り出した。
 ガッという鈍い音が響き、朱鷺の足の半分が木にめり込んだ。それだけではない、朱鷺はそのまま足を振り抜くと木を真っ二つにへし折った。バキンッという大きな音がして、ゆっくりと重力に引かれて落ちていく。
 折れた木は完全に地面に横たわった。
 朱鷺は右手を少し前に出し、構えの姿勢をとった後、小さく呟いた。


 「……よし」


 そもそも朱鷺が強力な魔法少女として有名となった理由の一つは格闘技の経験である。父親が道場をやっていて、六歳の頃から家を出る十六歳になるまでの十年間、朱鷺は父親のもとで修業を積んでいた。
 家を出てからも、ある程度修行は続けていた。
 魔法少女となった今では特異な身体能力、それに父親の武術を組み合わせて、より一層協力となった。一応棒術も齧っていたので、七節棍を見事に操ることができているのだ。
 ぶっちゃけたことを言うと、肉弾戦の方が強かったりするのだが魔法少女戦ではそれはあまり褒められた戦法ではない。
 そのため、この三年ほどは七節棍一筋でやってきている。
 最近毎日のように出撃しているためか、あまり修業はしてこなかったのだが、今日は何となくやりたい気持ちになったのだ。


 「…………」
 腕は鈍ってない。


 この間の戦いで、中々無様な戦い方をしてしまったので少し心配になったのだ。
 だが、どうやら杞憂だったらしい。
 思ったほど腕は落ちていなかった。


 「……私が、リーダーか」


 フレイヤが死んだ今、研究所の魔法少女達を率いるのは朱鷺になった。
 だがはっきりしたことを言うと、あまり気が向かない。おそらくだが、自分では役不足だ。はっきりしたことを言うと朱鷺は強いが、その強さは仲間を率いて発揮されるものではない。一人で戦って、初めて彼女は強いのだ。
 フレイヤのようにはいかない。
 正直マリアと共に戦うなど考えたくもない。
 彼女が優希の代わりなど吐き気がする。


 「…………」


 達也が最前線に出て指揮をとればいいのだ。
 そんなバカげた考えが脳裏をよぎって消えていった。
 もう少し、やってから帰ろう。
 朱鷺はそう決めた。