研究所の所長室
 達也は目の前に座る朱鷺に熱燗を入れたコップを差し出すと、尋ねた。


 「呑むか?」
 「いただこう」


 そう呟いて受け取ると、クイッと一口飲んだ。芋焼酎の少し独特な味は、朱鷺の下にしっくりときて思いの外あっさり喉を通った。少し熱くなる感触もあるがそこまで大したものではなかった。
 久しぶりに酒を飲む。
 朱鷺は一気に一杯すべて飲み干すと、満足げに呟いた。


 「旨い」
 「そうか、よかったな」
 「お前はどうだ?」
 「正直分らないな、ただ、悪い気はしない」
 「そうか」


 そんなことを言いあって、二人は無言のまま飲み続ける。
 わざわざ所長室にまで来た朱鷺だが、正直そこまで大した用事があったわけではない。ただ何となくジッとしているのもあれなので研究所内をフラフラと歩いていたら、偶然にも達也が酒を飲んでいるところに出くわしたのだ。
 勧められるまま何の気もなしに呑み続ける朱鷺
 彼女も今年で二十歳
 二~三年前からちょくちょく呑んでいたのだが、朱鷺は日本酒や焼酎と言った酒が好きだった。逆に発泡酒は苦手だった。
 達也はゆっくりとコップを空にしながらこう呟いた。


 「さて、そろそろヤバいな」
 「何が」
 「戦況さ」


 そう言って空中に投影された一つの映像を朱鷺の前に出す。
 するとそこにはアメリカの基地を占領する翼の少女と、数人の魔法少女の姿が映っていた。どうやら誰かが写真に撮った物らしい、隅っこに今日の日付と昼間の時間が印刷されていた。
 朱鷺は小さく頷いてからこういった。


 「核は?」
 「奪われていない。ギリギリのところで輸送に成功した」
 「ならいい」
 「だが、最悪だ」


 それは本当だった。
 急いでいたせいで核以外の物はほとんどそのままだし、国連軍と数人の魔法少女も犠牲になった。核ミサイルを守ると比べると、微妙に割に合わない。ウタゲや一条蛍を帰国させたのも判断ミスだった。
 今すぐにでも奪還するべし
 国連軍は達也にそう言っているが、彼の考えは少し違った。


 「だが、勝ち目はある」
 「詩音か?」
 「そうだ。こちらはアリヤの位置を完璧に特定し、その情報はさっき詩音に送った」


 そう言って片手にもっているスマートフォンを見せる達也
 朱鷺はあまり興味なさげに呟いた。


 「なるほどね」
 「全て、彼女次第さ」


 そう言って別の動画を空中に投影させる。
 するとそこには
 アリヤに向かって行く詩音の姿が映っていた。