ガッという鈍い音がして、右こぶしが顔面に命中する。
 それと同時に仮面を砕ける硬い感触が伝わってくる。アリヤはなす術もなく殴り飛ばされ、背中からどさりと地面に倒れ込む。その周囲に白い仮面の破片とさっきまで握っていた刀が転がっていく。
 今ならいくらでも追撃できるが詩音はあえて何もせず、アリヤのことを見下し続ける。
 拳からは破片が突き刺さったのと、強く握りすぎたせいで血がにじんでいた。
 詩音はさっきまでとは一転、両目から涙を流しながらこう呟いた。


 「もう一度、お前の顔をしっかり見せてくれよな」
 「…………」


 アリヤは無言のまま詩音に背中を向けたまま立ち上がる。
 しっかり両の足を地面につけた後、くるりと回って詩音の方を向く。

 一年ぶりの素顔だった。あのときから何一つとして変わらないすました顔、しかし、左側は少し赤くなっていて、土で薄汚れている。目は最後に見た時と比べると、より一層死んでいるように見えた。
 アリヤはもう何も映していない目を詩音に向けると小さな声で言った。


 「…………これでいいの?」
 「あぁ、文句ないぜ」
 「…………」


 アリヤはサッと右手のひらを広げる。そこに刀を顕現しようとしたのだ。
 しかし、それに気づいた詩音が顕現される前に動くと、今度は左腕を振るい、思いっきり鳩尾を殴った。


 「……グッ!!」
 「させるかぁ!!」


 怯んだ隙に、右手で顔をもう一度殴る。
 渾身の一撃
 アリヤは再び吹き飛ばされるも、今度は倒れることはなかった。
 どうやら頭の骨の一部が折れたらしい、激痛が走るものの、ほどなく傷は癒える。
 アリヤは理解した。詩音は自分に武器を持たせる隙を与えるつもりは無いらしい。ならば、その誘いに乗るまでだ。アリヤはボクシングの選手のように両腕を構えると、詩音のことを睨み付ける。
 それを受けて、詩音はもう一度拳を振りかざす。
 アリヤも対抗するかの如く、腕を上げた。
 低次元な戦いが始まった。

 二人はひたすら殴り合いを始めた。
 お互いの拳でひたすら傷つけあう。
 能力を使おうともしない。
 まるで拳で語り合うかの如く
 二人はひたすら殴り合った。