「君の最大の武器、それは君の名前だ!! 顔だ!! マリア、君の存在そのものがアリスに対する最終兵器なのさ!!!」
 「い、いきなり何!? どういう意味なの!?」
 「しかしな、知らない方が幸せなこともある」
 「そんな…………」
 「君ならアリスに勝てる。違うな……君だからこそ、アリスに勝てる」


 その言葉の直後、マリアは気づいた。
 達也が泣いている。
 目から涙を一筋流しながら、最後にこう言った。


 「頼む、アリスを救ってくれ」
 「――ッ!!」



 意味は分かっている。
 殺せという意味だ。
 マリアはどうすればいいのか分からず困っていると、達也はもう話は終わりとでも言いたげに背中を向けると所長室の椅子の上にドカッと座り込む。そして手元にあった瓶から酒をコップに注いだ。
 そして琥珀色の液体に自分の顔を映し出し、眺め、自分の顔を流れる涙に驚きながらつぶやいた。


 「いいか、ユウキについて地下へ行け、そこに秘密の脱出口がある」
 「そうなの?」
 「そこから逃げろ、いいな」
 「……分かった。ユウキ」
 「おう、ついてこい」


 ユウキは一足先に動くと所長室から飛び出していった。
 マリアも反射的に動き、その後を追って行こうとするが、依然椅子に座ったままコップの中を覗き込んでいる達也のことが気にかかり、足を止めるともう一度向き合う。達也もそれに気が付き「うん?」と言ってマリアの方を向いた。
 あまり時間がない。
 マリアは手早く要件を述べることにした。


 「あなたは?」
 「何が?」
 「達也は?」
 「あぁ、俺か」
 「逃げないの?」
 「後から行く」


 嘘だ。


 マリアは分かった。
 しかし、そのことについて言及する前に、マリアが来ないことを不審に思って戻ってきたユウキの視線を感じる。ヒョイッと顔を覗かせて無言のまま催促してくる。それに負けて、マリアはそちらの方を向いた。
 その背中に
 小さな声がかけられる。



 「すまなかったな」


 「え?」



 何かおかしな言葉が聞こえたような気がして、マリアは振り向く。
 しかし、その視線の先にそんな優しい言葉をかける人間はいなかった。
 マリアはいろいろと諦めるとユウキの方へと向かって行った。
 その背中を見送りながら、達也は小さく呟いた。


 「俺の役割は終わった」