アリスは剣を振りかざすと、達也に向かって突っ込もうとする。
 だが達也は即座に右腕を上げ、親指と人差し指の先を合わせて、そこにある小さなスイッチを入れる。
 すると所長室のある装備が起動すると、天井からアリスを中心として円柱状に魔力のシールドが張り巡らされた。直後に内部に高濃度な魔力が充満していくと、アリスの動きを制限した。
 それに気が付き、アリスは無いに等しい顔を歪ませる。
 これでは空間削除能力を発動することもできない。それに、ここまで高濃度の魔力では一秒や二秒で突破することができない。目の前にいる男。そいつを今すぐにでもこの手で殺すことができない。それは非常に屈辱的なことだった。

 達也はニッと笑うと勝ち誇る。
 ここまでは計画通り
 達也はサッと右腕を上げると、義手を操作しながら言葉を聞かないアリスに向かって話しかける。


 「ほとんど十年ぶりか、すっかり別人だな」
 『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! わけわかんない!!! 何を言っているのか分からないぃ!!!!!!! ハハハハハハハハハハハハ!!!!!』


 アリスは話を聞いていない。
 だがそんな事は関係ない
 達也は淡々と言葉を紡ぐ。
 何か面倒なことをしようとしている。それを察したアリスは何とかシールドを突破しようと、両手に大量の魔力を集中させる。そうして、外に奴と同様に無理矢理突破しようとする。ところが、強度が段違いだった。
 この手もうまくいかなかった。

 静かな部屋に
 達也の声だけがただ響く。


 「ふと思うのだが、俺はどうして君を救えなかったのか。その理由は今までずっと考えてきた、所長が発狂した日も、優希が魔法少女になった日も、君を見失ったあの日からずっとだ。それは十年たった今でも何も変わらない。
 だが、山本慎吾と出会ってからある仮説が思い浮かんできた。それが正しいと確信を得ることはできない。直接君に聞くことができればそれが一番なのだが、それはかなわぬ願いだった。今でもそうさ、目の前にいるのに君とはまともに会話を交わすこともできない。
 悲しいが、それは今気にすることではない。
 今ここで話をするのは俺の考えた仮説のことだ。
 どうして俺は君を救えなかったのか、もしかすると、俺は君からすると遠すぎたのかもしれない。山本慎吾は自殺しようとしているところを君と出会ったという、君もその時死のうとしていた。もしかすると、同じ負のベクトルに力が向いているからこそ、山本慎吾は君に「生きていてもいい」と言えたのかもしれない。
 そう考えると、俺には不可能なことだった。
 俺はあくまでも君を生かそうと考えていた、君に自分の足で歩き、自分の生きたいように生きてほしかった。そのために何でもするつもりだった。どんな手段でもいい、ずっと支える気でいた。
 それがいけなかったとは言えない、だが君に対しては間違っていたのだろう。
 俺は君とは全く違う考えの人間だった。正反対の方向に力のベクトルに向かっていたのだろう、真逆の方向に移動していた。背中合わせに会話をしていたのだろう。それは無駄ではなかったと思うが実りにはならなかった。
 何となく俺はそれを察したいたのだろう。理解していた、納得していたわけではないが何となく分かっていた。
 だからこそ、俺は『ワンダーランド・インパクト』の後で君のことが好きだと認識した。だがそれは本心から好きだったからではないように思う。今になってこそ言えることだが、俺は優しい言葉をかけて力を貸すだけの「他人」ではなく、そばに寄り添って顔を突き合わせて話せるような「家族」になろうとしていたんだろう。
 それが「恋人」という立場だっただけの話だ。
 あの時の俺の決意は今でも残っている。
 だが形は大きく変わった。クライシスは言った、俺はこの十年間重要なファクターになると。今年で十年目だ。俺の役目はもうすぐ終わる。あとは彼女たちが継いでくれる、もうやることもない」