朱鷺 その⑤



 体の自由が奪われ、燈子の放つ重力干渉波に押されて朱鷺はそのまま背中から地面に落ちる。ドッという硬い音ともに、鈍い衝撃が伝わってくる。歯を食いしばって、声が漏れないように堪える。
 このまま、腕から炎を放たれて全身を燃やされてはたまったものではない。
 力任せに右足を振り上げると、それで燈子を蹴り飛ばす。


 「グハッ!!」
 「小癪なぁ!!」


 どうやら、内臓を潰すことに成功したらしい。
 彼女はふわりと宙に浮き、数m後ろに倒れ込んだ。
 朱鷺は怒りに身を任せ、一歩前に踏み出すと寝ころんでいる燈子の手刀の一撃でも叩き込もうとする。これで、首を貫き、彼女を絶命させるつもりでいた。七節棍を操作している手前、あまり意識をこちらばかりに集中させるわけにはいかない。
 無慈悲に死を叩きこもうとしたとき
 朱鷺は異変に気が付いた。


 視界がグニャリと歪む
 地面がぐらぐらと地震のように揺れ始める。
 手足の先が痺れて視界がぼやけてくる。


 「……かっ……!!」


 今気が付いた。舌が麻痺してうまく動かない。
 意識が遠のくのが分かる。


 何が起きた。
 朱鷺は初めて焦っていた。
 正体不明の攻撃を受けている。
 何だ
 何が起きた

 ドッと軽い音がして、両膝が地面に着地する。膝立ちの姿勢で、朱鷺はなんとか自分の身に降りかかったこの謎の現象を確かめようとする。だが、全く持って見当がつかない。それどころか、朦朧としてまともに思考できる状態にない。
 朱鷺は大きく息を吐いて無理矢理心を落ち着かせると、手を吐きながらなんとか立ち上がる。
 そして、ようやく起き上がった燈子に向かって全力で叫ぶ。


 「貴様ぁ!!! 何をしたぁ!!!」


 すると、
 それを聞いた燈子は「ククククク」と笑いながら小さな声で話しかけてきた。