終焉



 私は誰?

 私は何?

 私はどうして生きているの?

 私は、私は、私は?

 ゆっくりと森の中の獣道を歩いていく、穴の開いた片足を引きずりつつ、全身の傷跡から血液を垂れ流しながらも必死に両足を前に出す。全身を酷い痛みと抱きかかえることのできるぐらい重い疲労感が蝕む。
 吐き気と激痛で意識が朦朧とする。もう傷を受けてからそこそこの時間が経っているので痛みのピークは過ぎているのだが、その分だけ苦しみは酷くなっていた。
 それでも私は足を止めない。


 「ふー……ふー……ふー」


 苦しげに歯の隙間で息をする。しっかりと食いしばっていなければ、口から血をドバッと吐き出してしまいそうだった。それでも口の端から一筋の血が流れていく、それはゆっくりと麗装に垂れていく。だがすぐに蒸発して消えていく。
 すると突然、ズキッという鋭い痛みが走る。肩だ、右肩の傷が開いたのだ。それはそうだ、結構この道は荒れており前に進むのが精いっぱいだった。これが獣道かと私は感心する。今まで舗装した道路しか歩いたことが無かったからしょうがないのだが
 酷く痛い
 私は腹を抑えていた腕を肩に回すとそこを抑える。掌になけなしの魔力を集めるとこれ以上出血しないようにする。
 だが、今度は腹の傷が再び開く。小さな穴からどろどろと血液が流れてくる、ズキズキという痛みがさらに大きくなっていく。
 「うぅぅぅぅ」
 ふと足を止めて空を見上げてみる。
 するとそこには夕暮れの空が広がっていた。山の向こう側に沈む夕日がオレンジ色の光を周囲にまき散らしていた、それを雲が反射して何とも言えない色合いを醸し出していた。さらに、そこを飛ぶ鳥の群れ
 こんな状況でなければ十二分に楽しめるであろうことは容易に想像がついた。
 私は考えをめぐらし続ける。

 私はなぜここにいる。

 私は何をしている。

 思えば何もない。
 私は生まれてこの方、何もない。過去もなければこのままでは未来もない、それなのにこんな場所で何をしているのだろうか。今まで言われるがままここまで来た、それはもちろん自分で選択したこともあれば、そうでないことも多々ある。少なくともここにいるには選択したことだ。
 だが生まれてきたことは自分が選択したことではない。
 戦ってきたこともだ。
 そもそも自分はどうして戦ってきたのだろうか

 …………
 やめよう
 今まで何度も考えてきた、そしていつも考えるのを止めてきた。どうせ答えは出ないのだ、そんな袋小路に迷い込んでまで答えを見つけたいとは思えない。それにそこまで時間はないのだ。
 ふと指を見てみると嫌なものが見えた。親指が微妙におかしな色になり、違和感に気が付く。なんだこれはと思ってみると、ゆっくりと指が崩壊していくのが見えた。粒子化だ。


 「―――ッ!!」


 予想していたことだがゾッとする冷たい感覚が襲ってくる。
 すでに傷の修復が困難になっていることから、ガス欠が近いことは察していたがここまで早いとは思っていなかった。
 こうなっては致し方ないと肩の傷を抑えていた魔力を消すとギリギリまで魔力の使用を抑えることにする。
 急がなくては
 自分が死ぬ前に

 私は顔を上げるとここまで自分について来てくれた彼の方を見る。
 彼はあいも変わらず不気味な笑顔を浮かべたまま言葉を放つ。


 「どうした?」
 「……ねぇ……あなたの言うこと、嘘じゃないでしょ……」
 「あぁ、その通りだ」
 「じゃあ……急がないとね」


 弱々しくそう呟く。

 私は救うべきではないものを救い、守るべき大切なものを守れなかった。

 ならせめて最後ぐらい自分の納得のいく決着をつけたい。

 これは

 復讐だ。