腕を突き出す。
 するとやはり手ごたえもなく、マリアに左腕はズブリとめり込んでいく。

 これで終わり

 マリアは魔力吸収能力を発動すると
 原初の魔法少女を殺しにかかった。

 今までの物とは全く違う。
 汚染されていく感触がする。まるで質量を持っているかのようなそれは徐々に、しかし確実にマリアの体内へ、体内へと入り込んでくる。若干の拒否反応と、吐き気を催す感覚を伴いながら。
 時間停止時間は約十秒
 その時間はあっという間に過ぎる。

 世界に音が戻ってくる。
 それと同時に色も舞い戻ってくるかのようだった。
 それでもマリアは、他の全てを無視して、ひたすら魔力を吸収し続ける。



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 原初の魔法少女はハッと気がついた。
 さっきまで自分が捕縛していた魔法少女の姿が消えていた。と思ったら、背後に人の気配がして、自分の魔力が大量に吸い上げられている感覚がする。何が起きたのか理解が追い付くより早く、彼女は身の危険に気がついた。
 これでは死ぬ。
 紛うこと無き死が近づいてきている。
 反射的に原初の魔法少女はマリアを弾き飛ばし、その死から逃れようと思った。それはある意味当然と言える。ある程度枠組みを外れた存在とはいえ、一応原初の魔法少女も生物であることに変わりはない。
 体は生きようとする。
 だが、それを制御するのはあくまで人間の思考

 彼女はあることに気がついた。
 死ぬ、と感じることができる。
 つまり、死ねる?

 この死ねない体から解放されて、永遠の安らぎの中に眠ることができる。

 それはアリスの願いそのものであった。


 『………………』


 それを悟った瞬間
 アリスは抵抗をすることを止めた。


 アリスに訪れた死は、実に静かで心地の良いものだった。全身に満ち満ちていた何か邪悪なるものが抜き取られ、その全てが消えていくかのように。老衰とはこのようなものなのだろうか、ゆっくりと暖かい光が満ちる穴へと落ちていく感覚。もしくは冬のある日、暖かい布団の中で眠りにつくような感触。
 死の恐怖ではない。
 はっきりと分かった。

 これは救いだ。
 かつて自分が見殺しにしてしまった心の支えが、今、血で薄汚れた汚らしい世界から自分を引っ張り上げてくれている。

 アリスは
 安らかな死についた。