それとは対照的に

 マリアは地獄の苦しみを味わっていた。


 流れ込んでくる魔力が重く、まるで大量の針が次々と突き刺さるように鋭く、断続的な痛みが襲ってくる。それだけではない、吸い込んだ原初の魔法少女の魔力が自分の体から水蒸気のように放たれる。
 肉体が引き裂かれるんじゃないかという妄想が頭の中を支配する。実際、本当に真っ二つに分かれていたとしてもマリアは大して驚かなかっただろう。なぜ自分はこんなことをしているのだろう。目的を見失ってしまうが、すぐに正気に戻る。それもまた、痛みのおかげで。
 気分が悪くなり、胃の中の物がゆっくりとこみ上げてくる。
 視界がゆっくりと暗くなる。
 だが、どういう訳か意識ははっきりとして、その苦しみから逃れることを良しとしなかった。


 「ううううううううううううううううううっ!!」


 歯を食いしばり、カッと目を見開くとその痛みを何とか堪える。
 ここで逃げたら
 原初の魔法少女を殺すことができなくなる。
 決して逃げてはいけない。
 この苦しみを受け入れて初めて、勝利を得ることができるのだ。

 結局、原初の魔法少女の魔力を吸収しきるのに約五分かかった。
 消費の方が生成より多いとはいえ、原初の魔法少女の魔力は規格外の量。今までの魔法少女や絶望少女なんかとは比べものにならない。それに、襲い来る苦痛のせいでその時間は永遠にも思えた。
 だが、そんなことはない。
 始まりがあれば終わりがある。

 原初の魔法少女の肉体を形成していた粒子の数が激減すると、その中心にあるコアの姿が露わになる。マリアはぼやける視界の中、それを確認すると、限界まで腕を伸ばしてそれを手中に収める。
 それは蠢いていた。心臓のように鼓動しているのではない、ナメクジのようにグネグネとしているのだ。
 暖かいのか冷たいのか、中途半端に気色が悪い。触り心地も最悪だ、解凍したての生肉を全力で掴んだ感触と似ている。グニャリと指が吸い込まれそうでありながら、それはその柔らかさに弾き返されてしまう。そのせいか、実体があるのかないのかもわからない。光の塊のようにも見えるし、ただの肉塊にも見える。
 持っているだけで、気分が悪くなり、吐き気が余計に増していく。


 「あぁっ!!!」


 マリアは
 最後の仕上げとでも言いたげに、
 渾身の力を込めると

 原初の魔法少女のコアを
 握りつぶした。

 なぜか
 どういう訳か
 潰した瞬間にバキンッという何かが割れる儚い音が響いた。幻聴か、はたまた現実か。マリアにその判断はつかなかったが、とにかくマリアの耳にはガラスの割れるような悲し気な音に聞えたのだ。
 魔力の欠片がはじけ飛んで、
 周囲に雪のようにばらまかれる。それは中々美しい光景だったが、マリアにそれを楽しむ余裕はなかったし、原初の魔法少女が生み出した物というだけで、嫌悪感しか抱くことができなかった。そんな自分が悲しい。
 マリアは最後の一欠片が指の隙間から零れ落ちるのを見て、原初の魔法少女がこの世から消え、本当にすべてが終わったことを理解した。