一方、椎名は朱鷺相手に苦戦を強いられていた。
 何年も魔法少女として戦ってきて、フレイヤでさえ名前を知っている超ベテランの朱鷺がこの一年で生まれた椎名に負けるはずがない。力量に差がありすぎるのだ。戦闘が始まって早五分、椎名は完全にもてあそばれていた。
 七節棍をヌンチャクのように自在に操り、いつでも攻撃を仕掛けられるようにしている。その割には疲弊しきって、膝をつきうなだれている椎名に対して何もしようとしない。いつでも殺せると言わんばかりの態度だった。
 それに気が付いている椎名は非常に顔を歪ませている。

 屈辱的だった。

 何とか痛みが収まってきたので、ゆっくりと体を起こし立ち上がる椎名。そしてダガーを構えなおし、鋭い切っ先を向ける。雲の隙間から差し込む日光を反射して、きらりと輝く。彼女はまだ、諦めていなかった。
 その姿を見て朱鷺は哀れそうに呟く。


 「諦めた方が賢明だと」
 「う、うるさい……黙ってろ」
 「ふむ……ならいいだろう。引導を渡してやる」


 いい加減飽きてきた朱鷺はもうさっさと終わらせることにした。
 バラバラにしていた七節棍をヒュッと一振りすると、元通り一本の棒状に戻す。そして、両手でしっかりと握りなおし、しっかりと構えを取る。
 椎名も腰をかがめるといつでも突っ込めるようにし、同時に能力を発動する。
 すると椎名の姿が掻き消える。その上、まるで分身でもしたかのように周囲に何人もに分かれた。だが、全員がまるで鏡合わせのように全く同じ格好をしており、動きが完全にシンクロしていた。
 朱鷺は既にこの能力を見切っていた。


 「そんな子供だましが通用するとでも?」
 「私には、これしかない」
 「そうか」
 「いくぞ!!」


 椎名はそう叫ぶとまっすぐ朱鷺に向かって突っ込む、すると同時に何人もの椎名が全く同じ様に動く。
 これではどこから攻撃を仕掛けられるか分からない。
 だが朱鷺はピクリとも動かない。視線をチラッと左に向ける、潰れているため見えないが、そこに椎名がいるはずだった。人の影一つとして見えなかったが確信があった。目の前にいるのは偽物だ。
 その理由は、地面にまき散らしておいた式神である。
 パッと見では何も見えないが、左側にある数枚がグシャッと何かに踏まれているのが分かる。一方で周囲に何人もいる分身が踏んでも何も起きない。
 椎名の能力は光を屈折させて自分の姿を消して、別な場所に投影することができるのだ。つまり、周りにいる分身は全て実体がない。
 本体は左から襲ってきている。おそらく、失明している左目の死角を狙っているのだ、その心は分からなくもなかった。
 同じ状況なら、自分でもそうする。
 それゆえ、予測しやすい


 「死ね!!」
 「フンッ!!」


 椎名がいるであろう虚空に向かって七節棍を突き出す。
 すると狙い通りガッという鈍い音がして、椎名の苦し気な「クッ」という声も聞こえてくる。どうやら当たった感触からすると、ギリギリダガーで受け止めたようだった。一発で仕留められず少し残念に思う。
 ほとんど同時に椎名の分身がまるで幽霊のようにスルリとすり抜けていく。


 「子供だましはやめろ」
 「………そうみたい」


 そう呟くと能力を解除して、ゆっくりと出てくる。