クライシスはいつも通りの声のトーンと顔でさも楽し気にマリアに話しかけてきた。


 「すまないね。最終的な調整に時間がかかっていて、おかげで完璧になったけど」
 「もー!! そうならそうと言ってよ!!」
 「ハハハ、すまない。それより、早く敵を」
 「忘れてた!!」


 マリアは急いで顔を向ける。
 すると同時に翼の少女の目と自分の目とがピッタリと合った。すぐに命の危険を感じ戦闘態勢をとる、今度は右手に剣を構え、左手はいつでも振るえるようにする。翼の少女も同じように構えの姿勢を取った。
 緊迫した空気が流れる。
 クライシスはそれを壊さない程度にマリアに話しかけた。


 「いいかい、君の魔力吸収の射程は短い。せいぜい掌から1m範囲内だ」
 「そうなの?」
 「だから残った二つの能力はその能力を補助するものになっている」
 「どういうこと?」
 「瞬間移動は即座に離脱するため、もう一つの能力は接近するためにある」
 「なるほどね……」
 「いいかい、君は今すぐもう一つの能力を顕現するんだ」
 「どうすればいいの?」
 「単純だ、止まれと願え」
 「……止まれ……?」
 「そうだ」
 「……OK、分かった」


 とりあえず言われた通りにしてみることに決めた。目を閉じて、意識を集中させる。クライシスの言うことを脳内で反芻する。意味は分からなくていい、マリアは今までの戦いで感覚で戦うことが一番だと悟っていた。
 翼の少女は間髪入れず地面を蹴って飛び出した。
 目を閉じたマリアの姿は完全に隙だらけなのだ。
 刀を振りかざし、その切っ先をマリアの喉元に浮きつけようとする。
 だがその前にマリアは目を開けた、そして目と鼻の先までで迫ってきた少女のことを睨み付ける。


 死が迫ってきている。
 その恐怖感がマリアを強くする。


 「止まれ!!!」


 声に出していたつもりは無かったが、どうやら無意識のうちに口走っていたらしい。少し震えた声が軽やかに響き渡る。


 その瞬間


 能力が顕現した。