今でも思い出す。
 フレイヤは理科の午後の最後の授業で屋上で太陽の観察をしていた。そのせいで、筆箱を忘れて行ってしまったのだ。下校する直前にそれを思い出した彼女は、許可を取るのが面倒だったので一人で屋上に向かった。
 そこで、アリスを見つけた。
 彼女は一人黄昏ていた。
 黒い髪をなびかせて、夕焼けに顔を赤らめながらジッと下を見下ろしていた。その目に鼻にも映っておらず、ただ虚無感が漂っていた。その瞬間、屋上はアリスの世界だった。フレイヤにそこに入り込む勇気はなかった。
 気遅れしたので筆箱は諦めて帰ることにした。
 後にも先にもそれがアリスを見た最後の瞬間だった。
 だが、それだけで十分だった。


 「なんとなく、似てるわね」
 「え、ええ」


 何となく複雑な気分だった。
 素直に喜べなかった。


 「でも、違うわ。あなたはあなたよ」
 「…………」
 「さてと、本題に入るわよ」


 そう言ってほほ笑むフレイヤ
 今までの話は一体何だったのか、気になったがとりあえず忘れることにした。


 「あなた、戦う気がないわね」
 「え……」
 「別にごまかさなくていいわよ。あなたみたいな魔法少女は何人も見てきたから」
 「……まぁ、そうです」
 「あら、だいぶ素直なのね」
 「まぁ」


 マリアはフレイヤの雰囲気にのまれていた。
 何でも気さくに話せる気のいい大人と言った感じで
 ついついマリアは本音をぶちまけてしまう。


 「フレイヤさん」
 「何?」
 「私、怖いんです」
 「何が?」
 「死が」
 「あぁ……」


 よく分からない声を上げるフレイヤ
 納得しているか、それとも馬鹿にしているのか、ちらりと横見て表情を伺ってみるがよく分からないそこまで大きな変化は見て取れなかった。マリアは分かった、彼女が常に浮かべている笑顔は偽物だ。
 ただの作り笑い
 気の良い人であることに違いはないのだろうが、少し何を考えているのか分からないところがあることに気が付いた。
 フレイヤはそのまま話を続ける。


 「あなたは、どうして戦うの?」
 「え…………」
 「何かのために戦ってみなさい。そうしたら、すっきりするわ。面倒くさいことを考える余裕がなくなるから、私もそうだし」
 「でも……」
 「ん?」
 「私には、何もない」

 力ない声でそう呟く。