死後 その③


 「どうだマリア、面白かったか?」
 「面白かった!! 映画ってあんなのなんだ!!」
 「古い奴の再放映だけどな」
 「それでもだよ!!」
 「ハハハハハハ、それだけ喜んでもらえたら映画館も本望だろ」


 二人は本屋で本を十冊ほど買ったあと、少し離れた場所にある映画館まで来ていた。
 結構大きな場所とはいえ、こんなご時世、新しく映画を撮るなんてことはほとんどなく、昔の作品ばかり放映していた。今日二人が見たのは『アルマゲドン』という作品だった。わざわざ説明するまでもない名作だ。
 初めて映画を見るということもあり、マリアは熱中してしまった。
 一方で深く考えてしまう点もあった。
 なぜ、彼らは隕石に潰されて死ぬことを良しとしなかったのだろうか?
 どうしてあそこまで足?いていたのか、あそこまでして生き残りたかったのか。それは誰だって死にたくない、自分でもそうだが、あそこまでスケールの大きい話では考えがガラリと変わる。
 自分だったら諦めるかもしれない。
 気持ちが分からないわけでもないが、隕石に踏み潰されるのだったらまだいい
 納得はいかないが、諦めはつく。

 それと一方でマリアは主人公とヒロインの恋愛に何だか羨ましいものを感じた。
 あそこまで人と人は精神的に強くつながりあうことができるのか、それは非常に素晴らしいもののように思えた。
 さっきの話を踏まえて考えてみると、もしかすると、彼は彼女のためにあそこまで戦うことができたのかも知れない。人類を救うのなんてついでだったのかもしれない。もしかしたら、それゆえに彼は世界を救うことができたのかもしれない。
 誰かのために戦える
 その凄さを思い知ったような気がする。


 たとえフィクションの世界だとしても、だ。


 「…………」


 マリアは思った。
 自分は自分に戦っている。
 もし、誰かのために戦えるとしたら、それは誰のためになるのだろうか



 答えなど出るはずがない問いに、出口のない迷路に迷い込んでしまったような気分に陥るマリア
 脱出する方法はだた一つ
 入口に戻るしかない。
 だがそれは、根本的な解決になっていない。
 しかし、しょうがない。




 マリアとユウキは二人並んで道を行く。
 次はどこに行くかな、と呟きながら歩いているユウキの姿を見て、マリアは何となく楽しい気持ちになる。すでに気がついていた。わざわざ自分を元気づけるために、ユウキは自分を連れ出してここまでしてくれている。
 そう考えると、感謝の気持ちと、また別の気持ちが湧き上がってくるのが分かった。
 ちゃんとお礼を言わなくては
 そう心に決めるマリアだった。


 「うーん、ネタ切れ」
 「え? 早くない?」
 「そういうなよ、俺だってあまり出かけたりしないからさ」
 「あー……そっか」


 何となく察した。
 二人はその後、無言のまま道を行く。
 とりあえず行先を決めずにブラブラすることにした。ユウキはその間に、どこかいい場所が見つかるんじゃないかと思っていた。マリアはマリアでただ街中を歩いているだけで、道行く人を見ているだけで十分楽しかった。
 はっきり言うと、そこまで綺麗な町ではない。
 しかしマリアにとっては初めて見る物ばかりで心が躍った。
 見渡しつつ、こっそり首を回すとユウキの横顔を見る。


 「……うーん」
 「……………」
 「お? 何だ、マリア」
 「――ッ!! 気にしないで!!」
 「ん、分かった」
 「…………」


 何となく変な空気が流れる。
 が、気にしているのはマリアだけだった。



 


「…………」


 朱鷺は研究所外にある一本の木の前で蹲踞の姿勢をとっていた。
 来ている服はいつもの作務衣ではなく、白の胴着と紺の袴をはいていた。背筋はピンと伸びて、目はピッタリと閉じられていいた。冷たい風が吹き抜けて、頬をそっと撫でていく。今の朱鷺は完全に自然と一体化していた。
 手はまるでお椀を形作っているように組まれていた。
 彼女はかれこれ五分間はこの格好で瞑想を続けていた。
 しかし、朱鷺は突然カッと目を見開くと突然立ち上がり、足を思いっきり上げると木に向かって蹴りを繰り出した。
 ガッという鈍い音が響き、朱鷺の足の半分が木にめり込んだ。それだけではない、朱鷺はそのまま足を振り抜くと木を真っ二つにへし折った。バキンッという大きな音がして、ゆっくりと重力に引かれて落ちていく。
 折れた木は完全に地面に横たわった。
 朱鷺は右手を少し前に出し、構えの姿勢をとった後、小さく呟いた。


 「……よし」


 そもそも朱鷺が強力な魔法少女として有名となった理由の一つは格闘技の経験である。父親が道場をやっていて、六歳の頃から家を出る十六歳になるまでの十年間、朱鷺は父親のもとで修業を積んでいた。
 家を出てからも、ある程度修行は続けていた。
 魔法少女となった今では特異な身体能力、それに父親の武術を組み合わせて、より一層協力となった。一応棒術も齧っていたので、七節棍を見事に操ることができているのだ。
 ぶっちゃけたことを言うと、肉弾戦の方が強かったりするのだが魔法少女戦ではそれはあまり褒められた戦法ではない。
 そのため、この三年ほどは七節棍一筋でやってきている。
 最近毎日のように出撃しているためか、あまり修業はしてこなかったのだが、今日は何となくやりたい気持ちになったのだ。


 「…………」
 腕は鈍ってない。


 この間の戦いで、中々無様な戦い方をしてしまったので少し心配になったのだ。
 だが、どうやら杞憂だったらしい。
 思ったほど腕は落ちていなかった。


 「……私が、リーダーか」


 フレイヤが死んだ今、研究所の魔法少女達を率いるのは朱鷺になった。
 だがはっきりしたことを言うと、あまり気が向かない。おそらくだが、自分では役不足だ。はっきりしたことを言うと朱鷺は強いが、その強さは仲間を率いて発揮されるものではない。一人で戦って、初めて彼女は強いのだ。
 フレイヤのようにはいかない。
 正直マリアと共に戦うなど考えたくもない。
 彼女が優希の代わりなど吐き気がする。


 「…………」


 達也が最前線に出て指揮をとればいいのだ。
 そんなバカげた考えが脳裏をよぎって消えていった。
 もう少し、やってから帰ろう。
 朱鷺はそう決めた。


sage