偶然 その①



 「さて、今日集ってもらったのは他でもない、仕事だ」
 「はいはい」
 「ちょっと!! 私は準備があるんだけど」
 「私はいつでもいいヨ」
 「…………はぁ……」


 一人一人反応が違う。
 やる気のあるのは精々デルタぐらい。
 比較的戦うことが好きな詩音でさえ、今日は顔をしかめて嫌そうな顔をしている。なぜなのか少し疑問に思うが、それよりも気になることがある。目の前にいるマッドサイエンティストがやけに上機嫌なのだ。
 机の上には琥珀色の液体が入ったコップが一つ置いてある。
 達也が酒を飲んでいたのだろう。
 そんな姿は初めて見る。
 いつもより楽し気な笑みを浮かべたまま、達也は言葉を続けた。


 「と言っても、大したことじゃない。今日の仕事は残党狩りだ」
 「あぁ? だったら別にやらなくていいだろ」
 「ちなみに数は三〇〇前後」
 「多いじゃねぇかよ」
 「この間のアリーナの戦闘時、こっちの動きがばれて敵の半数が逃げただろ?」
 「知らない」
 「そいつらだよ。今日の敵は」
 「かー!! 面倒だな」


 詩音はいつもより強い口調で口数と動きが多い。どうやらさっさと終わらせたいらしかった。
 今日はフレイヤがいなくなって初めての出撃だ。
 全員、何となく緊張していた。



 柳葉町の一角
 翼の少女たちが一時撤退したはずのその場所で、また敵が集結していた。どうやらアリスは柳葉町を諦めていないらしい、達也にはその理由の見当がついていた。おそらく、研究所攻略のためだろう。
 アリヤとアリスが一か所に集まっていることもそう考える原因の一つだった。


 おそらく、研究所にほど近いここで大量に翼の少女を量産し、物量で攻めるつもりなのだろう。
 そうなると、バリアーを発生させている施設は思いのほか簡単に陥落してしまうだろう。達也はどちらかと言えば量より質で勝負している。しかし、その一角を担っていたフレイヤが亡くなってしまった。
 このことはアリス側にも知られている。
 そのため今までのように水面下で行動せずに堂々と正面から来たのだろう。
 一番恐れていたことだった。
 達也は詩音が研究所を出る前、まだ戦力に余力があるうちに叩いておきたかったのだ。



 「見つけた!!」


 詩音の声が響く。後続の魔法少女達も、敵の姿を見つける。
 柳葉町で一番大きいビルとその周辺にある広場、そこに翼の少女たちが集まっていた。どうやらマリア達が来ていることに気がついていたのか、ほとんど全員が戦闘態勢をとっていた。
 朱鷺はちらりとユウキとデルタの方を見ると、目で合図する。


 出発前に作戦は立ててきた。
 二人は小さく頷くと、速度を上げてすぐに地面に降り立つ。ユウキはど真ん中に、デルタはそこから少し離れた場所に
 翼の少女たちはそれを見て一斉に動くと二人に向かって襲い掛かる。


 しかし、その程度でやられる二人ではない。
 ユウキは両手を広げると自分を中心に円状にサイコキネシスを発生させる。するとゴウッという音と共に風が吹き、少女たちを吹き飛ばしていく。羽が舞い、刀が折れる。至近距離で喰らった少女は体が吹き飛んでいた。
 血と内臓と肉片がまき散らされる。
 ユウキはその中でニッと笑うと小さく呟いた。


 「絶好調だぜ!!」



 一方のデルタも全力で事に当たっていた。
 左胸の装甲を開くと、そこにあるレーザーガトリング砲を起動する。全二十の銃口があり、その全てから淡い光が放たれる。ここまでくる間にある程度温めて置いたおかげで、すぐにでも攻撃することができる。
 目の間には何重にもわたる翼の少女達
 彼女たちは戦闘態勢に入ったデルタの姿を見て、すぐにでも攻撃を仕掛けようとするが、一歩遅かった。
 胸に埋まっている銃身が回転しながら前に出る。


 「喰らいナ」


 次の瞬間
 ガガガガガガガガガという銃声が響き、大量のレーザーが束になって翼の少女達を貫いていく。
 抵抗する間もない。
 後ろの方にいる奴らは飛び上がってかわそうとするも、レーザーの速度はかなり早い。まるでドミノ倒しのように次々と翼の少女たちが倒れていく。次々と数が減っていく、その光景は圧倒的だった。
 しかし、デルタの後ろにいる敵はその被害を受けていない。






 翼の少女たちは隙だらけのデルタの背中に向かい、攻撃を仕掛けようとする。しかしそれはデルタの予想通りだった。
 センサーで後ろの様子を見ていた彼女は、アキレス腱あたりの装甲を展開すると、そこから小型レーザー砲を展開すると、発射し、後ろにいた敵をけん制する。決してそれで敵を殺すつもりなどない
 実は胸のレーザーガトリングは長時間連射がきかない。ある程度撃ったら冷却しなければならない。
 それまでの間、撃てれば十分なのだ。


 せいぜい一分から二分と言ったところだろう。
 デルタの目論見は見事成功した。
 ガトリングガンの連射で相当の数の翼の少女を始末することができた。火力は高いがその代償は大きい、煙幕かと見まがうほどの量の蒸気が吐き出される。全身の機能が微妙に低下していくのが分かる。
 体内に熱が思いのほか溜まっているらしい。
 このままでは戦闘に支障が出てしまう。
 しかしそれも、作戦の内だった。
 デルタの目の前に朱鷺が降り立ち、話しかける。


 「よくやった、任せろ」
 「ありがト、回復するまで待ってテ」
 「お安い御用さ」


 そう言って七節棍をクルクルと回す朱鷺
 翼の少女たちはその姿を見て警戒し、ピタリと動きを止める。
 朱鷺はその隙をつくことにすると、地面を蹴って飛び出しすと、一番手近の翼の少女の腹部に棍の先を突き刺す。ズッと一気に突き抜けると、少女の背中からニョキっと棍の頭が覗く。
 人の体を突く感覚もすっかり慣れた。


 何の躊躇もなく、腕を振るうとそのまま翼の少女の体を二つに割いた
 グチャリという嫌な音と共に翼の少女は真っ二つになり、左右分かれて地面に倒れていく。内臓が噴水のように噴出される。見るからにグロテスクな光景だが、何の感傷も抱くことなく朱鷺は淡々と動く。
 死体から目を逸らすと、両手に棍を握り、さっき殺した奴の両隣にいた少女を突き殺した。
 あっさりと攻撃は成功するも、残った翼の少女は動くと、攻撃した姿勢でピタリと止まっていた朱鷺に向かって刀を振り下ろそうとする。
 だが、その攻撃は不発に終わることとなった。
 麗装の袖から大量の式神を吐き出すと、それでおそって来た翼の少女の動きを封じた。


 「甘いな」


 朱鷺はその一言共に体を大きく動かすと、足を振るい、棍を振るい翼の少女たちを蹴散らしていった。
 まるで羽虫のように少女たちは引き裂かれ、貫かれ殺されていく。
 その間にデルタは冷却を終了させ、戦線に復帰する。
 傍目でそれを見て、コクンと頷いた朱鷺は一旦後ろに下がり、七節棍を構えなおすと今度は何の躊躇もなく少女の群れの中へと突っ込んでいった。デルタもそれを見ると、あとにつき、少女たちに向かって一斉にレーザーを放っていった。

sage