偶然 その②



 「さぁマリア、出番だよ!!」
 「そうね、クライシス。やりましょうか」


 一方のマリアはユウキの後につき、剣を構える。
 その周囲を数えきれないほどの数の翼の少女が囲う。すぐには攻撃を仕掛けて来ず、少し離れたところから遠巻きに見ている。どうやらチャンスを伺っているらしいが、今日のマリアは一味違った。
 自分を取り巻く少女達にちらりと視線を向けた後、おもむろに目を閉じる。
 すると、瞼の裏にフレイヤの姿が映る。
 彼女は、自分を救うために死んだ。
 その事実が背中に重くのしかかっていた。自分のためにも、彼女のためにも、そして世界のためにも
 自分は世界を救わなければならないのだろう。
 戦わなければならないのだろう


 「フレイヤさん、もう私は迷いませんよ」


 小さくそう呟き、カッと目を見開く。
 雰囲気が一転した。
 それを敏感に感じ取り、翼の少女たちは動いた。
 マリアはそれを感じ取り、能力を発動した。


 「止まれ」


 その一言が唇からこぼれた瞬間
 時間が止まった。


 おかしな格好をしたまま、翼の少女達の動きが止まる。
 まるで世界が無人になったかのように、静かになる。マリアは少女たちの間をすり抜けながら、剣を振り切り裂いたり、魔力の腕を伸ばして次から次へと魔力を吸収して、次々と殺していく。
 時間が止まっているせいで、攻撃を食らった少女たちは腹の傷から内臓を噴出したままだったり、魔力を吸収された奴は特に異変はない。だが、すでにその命は失われてしまっている。
 マリアはまだ、せいぜい十五秒程度しか止めることができない。

 しかし、それだけの時間があれば相当の数の敵を倒すことができる。高速で移動し、次から次へと少女達の命を屠っていく。
 偶然にも一人の少女の吹き出した血液が、マリアの顔にパシャッとかかる。
 するとひきつっていた彼女の顔がより一層悲惨なことになる。
 その姿はこの間まで死に関して苦悩していた少女の姿とは違う。
 しかし、ただの人殺しではなく。決心をした顔だった。


 「ああああああああああああ!!!!」


 マリアは最初こそ無言だったが、途中から絶叫していた。
 と言っても十五秒は短い。
 何十人もの少女を殺し、マリアは少女達の一群を抜けたところに出る。そして血まみれになった剣を軽く一振りする。


 「動け」


 その一言と同時に時間が再び刻み始める。
 すると、マリアの背後に固まっていた魔法少女たちが一気に粒子化し、消えていく。はたから見ると、一瞬の間に大量の数の少女がいきなり死を迎えたように見える。だがそうではない。
 自分の手にしっかりとした感触が残っている。
 殺したという事実が背中にのしかかる。



 それでもマリアは顔を上げると、自分に向かって来るいくつかの光弾を視界に入れる。


 「クッ!!」


 ちらりと自分の隣を見る。
 そして座標をそこに設定すると、瞬間移動能力を発動する。
 マリアの姿が消え、一瞬のうちに隣に移動する。そして、さっきまでマリアがいた場所を光弾は通り抜けていくと、その後ろにいた敵たちに命中し、大爆発を起こす。また何人か死んだのが分かる。
 でも気にしない。


 「…………」
 「ハァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 地面を蹴って飛び出すと、目の前にいた剣の少女の首を切り裂く。
 思いの外軽い感触のあと、ポーンと首が飛んで行く。
 そのままくるりと体を動かすと、左腕を振るい、その周辺にいた少女達の魔力を吸収していく。順調に敵を殲滅していくマリア。
 その目は、決心した女の目だった。
 マリアが一人戦っていると、突然声がかかる。


 「マリア!! 右だ!!」
 「クライシス!?」 


 反射的に右を見る。
 すると、一人の魔法少女がとびかかってくるのが見えた。


 「いつの間にっ!!」


 そう叫びながら剣を構え直し、その少女と相対する。
 マリアは始め見た時、その少女が翼の少女にしか見えなかった。なぜなら、翼の少女の物とまったく同じ麗装をしていたからだ。しかし、よくよく見ると違う点がいくつもあることが分かった。


 まず、翼がない。
 それに顔につけている仮面が全く違う。陶磁器でできた白いものではなく、まるでオペラ座の怪人がつけるような、顔の四分の一だけを隠すような独特なデザインをしたものだった。
 それに、纏っている雰囲気も別物だ。
 最後に仮面から除くその瞳
 翼の少女の無機質なものとまったく違う
 完全に死んだ魚の目
 どす黒く、濁っていた。


 マリアはその少女の姿に困惑する。だがそれも一瞬だった。
 敵の姿がよく分からなくても、やることに変わりはない。戦うだけだ。
 マリアは剣を振りかざし、その少女に向かって飛んで行った。


 「あああああああああああ!!!」
 「…………うるさいな」


 初めて聞く声
 まるで透き通るようなものだった。




 詩音は両手の氷の剣を利用して、次々と敵を切り裂いていった。
 途中、司令官の翼の少女を殺したおかげで、周辺にいた翼の少女の動きを鈍くなったので相当の数をすでに片づけていた。彼女もまた、絶好調だった。
 残りの数も結構少なくなってきた。


 「一網打尽にしてやるぜ」


 詩音はニッと笑うと腰をかがめ、両手を地面につける。
 すると、パキパキという音が鳴り氷が周囲に張っていく。
 その次の瞬間
 氷からいくつもの氷柱がどっと生えてくる。
 すると、周りにいた少女たちがそれに貫かれていく。串刺しになった少女たちはまるでモズのはやにえのような無様な姿になり、傷跡から流れる血が氷柱を見事な紅色に染め上げていく。
 光を反射し、キラキラと光るそれは非常に美しかった。


 「ふぅ……さて次は」


 そう呟いて首をくるりと回す詩音
 すると、マリアと戦う一人の魔法少女の姿が目に入る。


 それを見た瞬間


 詩音は一瞬のうちに真顔になり、ゾッとするような殺気を放つ。


 だが、すぐに激昂の表情を浮かべると腹の底から全力で叫んだ。



 「アリヤァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」



 地面を蹴って、高速で宙を切る。
 その途中、その手にハンマーを顕現すると戦闘態勢を取り、突き進む。
 その姿はまるで鬼のようだった。


sage