墓標 その①



 あの日の戦闘から一日が経過した。
 その日、マリアは達也と共にヘリコプターに乗って空を移動していた。運転しているのが達也で、後ろに座っているのがマリア。何となく居心地の悪さを感じながらも、初めての空の旅を楽しんでいた。
 どうしてこんなことになったのか


 事の発端は今日の朝のことだった
 朝食を食べ終わったマリアがブラブラと研究所内部を歩いていると、偶然達也の姿を見かけたのだ。彼は何やら慌ただし気にエレベーターの方に向かって行っていた。
 廊下で行き違いになったので、マリアが脇にそれて道を譲ったところで、達也に目をつけられた。


 「マリア、暇か?」
 「え? 今日は出撃ありませんよね?」
 「ない」
 「なら暇です」
 「よし、ならついてこい」
 「え? えぇ!?」
 「早く来い」
 「え、ちょ……待ってくださいよ!!」


 カツカツと先に行く達也を必死に追いかけていく。
 その後、二人そろってエレベーターで屋上まで行き、そこに用意されていたヘリコプターに乗り込んだのだ。

 少し心配になりながらも、遠くに見える地上を飽きることなく眺める。
 達也は一心不乱に操縦桿を握りながら、エンジン音が響く中、大声を上げてマリアに話しかける。


 「どうだ。調子は」
 「すごいですね。これ」
 「魔法少女には負けるがな」


 マリアはどうにも気になっていたことが一つあったので、一度ガラスから目を逸らすと達也の方を向いて話しかける。


 「で、どこに行くんです!!」
 「それはついてからのお楽しみだ」
 「え……」


 なんだか嫌な予感のするマリアだった。




 二人は結局三十分ほどヘリに乗っていた。
 そして、小さな発着場に降り立ち、そこから少し離れた場所にある広場へと向かって行った。マリアは何となくだが、どこに向かっているかの検討がついた。なぜなら、それらが空からチラリと見えたからだ。
 大きな灰色の石が立ち、その周辺に小さいものがいくつも立ち並んでいる。
 簡単に言うと
 墓地だった。


 「こ、ここは墓地ですか?」
 「あぁ、その通りだ」
 「どうしてここに……」
 「ここは戦争被害者たちの慰霊碑もあるのさ」
 「え…………」
 「あれだ」


 そう言って中央にある一番大きな石を指さす。
 マリアはじっと見つめる。まるで視線で穴を開けようとするかのように
 達也は真っ直ぐ墓所へ向かって行く。しかし、どういう訳かその足はその慰霊碑ではなく、他の墓の方へと向かって行く。どうやら被害者たちの参拝に来たのではないらしい、マリアは少し急ぎ足で達也の後を追って行く。
 歩いて向かうこと五分
 マリアと達也の二人はその墓所の一番端にある、一番小さな墓石の前に立った。
 それを見つめながら、マリアは小さな声で達也に尋ねた。


 「これって……誰の墓ですか?」
 「見ての通りだ」
 「でも……そう。アリスの墓だ」


 目の前の墓石には赤城アリス、と名前が刻まれていた。
 初めて見る原初の魔法少女の本名に何となく呆気にとられる。
 達也はジッと墓石を眺めながら、いつも通り冷たい声で話しかける。


 「これはアリスの墓だが、遺骨はここにない。名前だけだ」
 「……でも、原初の魔法少女はまだ生きて……」
 「あぁ、生きている残念ながらな」
 「ならどうして……?」
 「理由を知りたいか?」
 「…………」





 何となく
 知ってはいけない何かがありそうで
 少し躊躇してしまうマリア
 だが好奇心は七つの命を持つ猫をも殺す。
 マリアは小さく頷いた。それを受けて、達也は話を始める。


 「これは俺が八年前に作らせたものだ」
 「…………」
 「これは俺の決意表明兼、アリスの供養だ」
 「…………」
 「いいか、俺はアリスを救いたい」
 「え…………でも……」
 「だがな、一つだけわかっていることがある」
 「それは……?」
 「アリスを救う方法があるとしたら、それはたった一つだ」
 「……何?」
 「死だ」
 「え」


 あまりに予想外の言葉に、マリアは目が点となる。
 そんなこと気にせず、達也は言葉を続ける。


 「彼女はもう、死ぬことでしか救われないのさ」
 「…………」
 「だから、君の出番なのさ」
 「そんな……」
 「頼んだぞ」
 「ちょっ……まっ……」


 その一言を言い残して達也は発着場へとまっすぐ向かって行く。
 マリアは話が途中で終わったような何とも言えない感覚をあじわいながらも、さっきと同じようにテコテコと達也の後を追って行く。なんだかついてきたことを後悔するような後味の悪さを感じていた。
 それでも
 マリアは一つだけ、あることを知った。
 じっとアリスの墓を見る達也の目
 そこからは何とも言えない哀愁が感じられた。
 達也も、人の子なのだ。
 マリアは少しだけ達也のことを見直した。


 「君は……本当にアリスに似ている……」
 「え?」
 「だが、それ以上に………」
 「何、達也さん?」
 「いや、何でもない」
 「?」


 何か引っかかる言いかただったが、気にしないことにした。



sage