墓標 その②



 研究所に帰って来たマリアを待っていたのは、旅支度を整えた詩音の姿だった。
 いつものボーイッシュな服装に、背中には見慣れない大きなリュックを背負っていた。しかし、遊びに行く人の顔にはこれっぽちも見えなかった。覚悟を決めた女の表情しており、何となく釣り合っていなかった。


 詩音はマリアと達也がエレベーターを降りたところで鉢合わせした。
 マリアは驚きのあまり言葉が出ず、達也と詩音は表情一つ変えず睨みあった。
 数秒間、静かな時間が流れる。
 二人はエレベーターから降りる。そしてすぐにマリアは詩音に話しかけた。


 「詩音さん!! どうしたんです!?」
 「おう!! ちょっと行ってくるわ」
 「えぇ!? どこに!?」
 「アリヤが見つかったからな。その討伐だ」
 「えぇ!?」


 より一層驚くマリア
 どうやら達也は知っていたらしく、そのままの調子で話しかける。


 「屋上から行くのか?」
 「そうだよ。なんか文句あんのか?」
 「ない」
 「じゃあいいだろ」
 「うん、行ってこい。さっさとしろ」


 冷たい言葉だった。
 詩音は少し顔をしかめた後、マリアの前に立つと肩にそっと手をかけてからこう言った。


 


 「マリア」
 「詩音さん……」
 「お前はもう一人前だ」
 「そんなことは……」
 「いいか、お前は一人で立派にやれる。それに、迷いも吹っ切れたみたいだな」
 「…………」
 「いいか、月並みな言葉だが、私がかけられるのはこれだけだ」
 「…………」
 「頑張れよ」
 「詩音さん……」


 何となく、ウルッときてしまうマリア
 詩音はその姿を見て、豪快に笑うとこう言った。


 「ハハハハハハ!! 今生の別れってわけじゃねぇんだ。また会おうぜ」
 「う……で、でも」
 「じゃ、行ってくるわ」


 そう言い残してエレベーターの乗りこむ詩音次の瞬間には扉が閉まり、彼女の姿が消える。非常に呆気ないものだった。マリアはそれを見送ってすぐ、頬を一滴の涙がこぼれるのが分かった。
 詩音は今生の別れではない、と言った
 しかし、マリアには分かった。


 詩音は生きて戻ってくるつもりがない。


 その事実が
 非常重くマリアの両肩にのしかかると同時に、これから彼女無しで戦わなくてはいけないという事実が恐ろしく感じた。


 皆、消えていく。


 マリアは
 すぐにでも泣き出したかったが達也がいるので我慢した。



 達也はやはり、いつも通りだった。



sage